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![]() にじねこのはなし |
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作品ID | 42759 |
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著者 | 宮原 晃一郎 Ⓦ |
文字遣い | 新字旧仮名 |
底本 |
「日本児童文学大系 第一一巻 楠山正雄 沖野岩三郎 宮原晃一郎集」 ほるぷ出版 1978(昭和53)年11月30日 |
初出 | 「赤い鳥」1927(昭和2)年1月 |
入力者 | 鈴木厚司 |
校正者 | noriko saito |
公開 / 更新 | 2004-09-13 / 2014-09-18 |
長さの目安 | 約 8 ページ(500字/頁で計算) |
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いつの頃か、あるところに一疋の猫がゐました。この猫はあたりまへの猫とはちがつた猫で、お伽の国から来たものでした。お伽の国の猫は毛色がまつたく別でした。まづその鼻の色は菫の色をしてゐます。それに目玉はあゐ、耳朶はうす青、前足はみどり、胴体は黄、うしろ足は橙色で、尾は赤です。ですから、ちやうど、虹のやうに七色をしたふしぎな猫でした。
その虹猫は、いろ/\と、ふしぎな冒険をしました。次にお話するのはやつぱり、そのうちの一つです。
ある日、七色の虹猫は日向ぼつこをしてゐました。すると、何だか、たいくつで仕方がなくなりました。といふのは、近頃、お伽の国は天下太平で、何事もなかつたからです。
「どうも、かういつも、あつけらかんとして遊んでばかりゐては、体が悪くなつていけない。」と、猫は考へました。「どれ、一つ、そこいらに出かけて、冒険でもやらうか知ら。」
そこで、猫は、戸口にはり札をしました。
「二三日、留守をしますから、郵便や小包が、もし留守中にきましたら、どうか、煙突の中に投げこんで置いて下さい。――郵便屋さんへ。」
それから、ちよつとした荷物をこしらへて、それを尻尾のさきにつゝかけ、えつちやら、おつちやら、お伽の国境までやつて来ました。すると、ちやうど、そこに雲がむく/\と起つて来ました。
「どれ一つ、雲の人たちのところに、顔出ししてみようかな。」
猫はひとりごとを言ひながら、雲の土手をのぼり始めました。
雲の国に住まつてゐる人たちは、たいへん愉快な人たちでした。仕事といつては、べつだん何にもしないのですが、それでも、怠けてゐるからつて、世の中が面白くないわけでもないのです。そして、みんな立派な雲の御殿に住まつてゐますが、御殿は地球から見える方よりも、見えない側がかへつて大へん美しいのです。
雲の人たちは、とき/″\、一しよに、真珠色の馬車をはしらせたり、又軽いボートにのつて、帆をかけたりします。空の中に住まつてゐるので、たつた一人、恐いものは、雷様だけです。何しろ、雷様ときては、怒りつぽく、よく空をごろ/\と、足をふみ鳴らして、雲の人たちの家を叩きまはるからむりもないわけです。
雲の人たちは、七色の虹猫がたづねてくれたのを大へんよろこんで、ていねいに挨拶しました。
「まあ、ちやうどいゝところへお出でなすつた。」と、雲の人たちは言ひました。「じつは、風の神さんのおうちで、大きなお祝ひがあるのですよ。それは、あすこの一番うへの息子の北の風さんが、今日、魔法の島の王様のお姫様をお嫁さんにお迎へなさるんです。」
七色の虹猫は、こんなこともあらうかと、ちやんと尻尾のさきの袋に、いろ/\の品物を用意してきたのでした。
ほんとに、びつくりするほどの立派な御婚礼だつたのです。
誰もかれも、みんなやつて来ました。お客様のうちには、慧星も見えました。よつ…