えあ草紙・青空図書館 - 作品カード
楽天Kobo表紙検索
雪中の日光より
せっちゅうのにっこうより |
|
作品ID | 43026 |
---|---|
著者 | 木下 尚江 Ⓦ |
文字遣い | 旧字旧仮名 |
底本 |
「木下尚江著作集第1巻」 明治文献 1972(昭和47)年2月10日 |
初出 | 「毎日新聞」1900(明治33)年2月22日 |
入力者 | 林幸雄 |
校正者 | 小林繁雄 |
公開 / 更新 | 2006-08-30 / 2014-09-18 |
長さの目安 | 約 1 ページ(500字/頁で計算) |
広告
広告
十八日發 樹蔭生
十六日夜は渡良瀬河畔に父老と語り明かしつ、明けの日も爲めにいたく時をうつしぬ、堤上の茂竹枯れて春は來ぬれど鶯も鳴かずなど訴ふるを聽て
鶯も鳴かずなりぬる里人は
なにをしるしに春は知るらん
佐野の停車場に[#挿絵]車を待ちぬるに山風に雪の降り來ぬれば
袖さへに拂はでむかし忍ぶかな
佐野のわたりの雪の夕暮
覺束な、明日入る路や絶へぬらん
足尾の山はみ雪降るなり
十七日、日光に泊りぬ、奧羽地方より雪ふみ分けて來ぬる參詣の旅客にて賑はし、
今朝起き出でぬれば雪積もること三尺、美觀言はん方なし
まれに來し人の爲めとや山姫は
雪の白綾かつぎしぬらん
去れど心さす方のある身には如何ばかり苦しかるらん、今も尚ほ繽紛として止まんともせず、せめては雪のはるゝを待ちて登山せん
行方さへあはれ何れとしら雪の
あまきる空をながめぬるかな
華氏五十三度されど雪後の寒さこそ思ひやらるれ、
(明治三十三年二月二十二日 毎日新聞第八八二六號)