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黄色な顔
きいろなかお
作品ID43028
原題THE YELLOW FACE
著者ドイル アーサー・コナン
翻訳者三上 於菟吉
文字遣い新字新仮名
底本 「世界探偵小説全集 第三卷 シヤーロツク・ホームズの記憶」 平凡社
1930(昭和5)年2月5日
入力者京都大学電子テクスト研究会入力班
校正者京都大学電子テクスト研究会校正班
公開 / 更新2004-05-26 / 2014-09-18
長さの目安約 43 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

 私は私の仲間の話をしようとすると、我知らず失敗談よりも成功談が多くなる。無論それらの話の中では、私は時によっては登場人物の一人になっているし、でなくても私はいつも深い関心を持たせられているのだが、――しかしこれは何も、私の仲間の名声のためにそうするわけではない。なぜなら事実において、私の仲間の努力と、多種多様な才能とは真に称讃すべきものではあったけれども、それでもなお、彼の思案に余るような場合があったからだ。ただどうかしてそんな場合にぶつかって私の仲間が失敗したような所では、他の者もまた誰一人成功したものはなく、事件は未解決のまま残されるわけである。けれど時々、ちょっとした機会から、彼がどんな風にしてその真相を誤解したかと云うことが、後から発見されたこともある。私はそんな場合を五つ六つ書き止めておいた。そのうち今ここですぐお話出来るものが二つある。そしてそれはそれらのうちでも一番面白いものである。
 シャーロック・ホームズと云う男は、滅多に、身体を鍛えるために運動などをする男ではなかった。が、彼よりはげしい肉体労働に堪え得る人間はほとんどなかったし、また確かに彼は、彼と同体量の拳闘家としては私の会ったことのある人のうちでは最も優れた拳闘家の一人だった。しかし彼は努力の浪費になるような無益な肉体的労働をちゃんと見分けて、何か職業上の目的のある場合でなくては、決して肉体を使うようなことはなかった。だから彼は絶対に疲れると云うことを知らずに、実に精力絶倫であった。その代り彼は不断からいかなる場合に処しても困らないだけの肉体の力を養っていた。食事は常に出来るだけ貧しいものをとり、厳格に過ぎるくらい簡易な生活振りだった。だが、時々、コカインをのむこと以外には、何も悪いことはしなかった。そのコカインも、事件が簡単すぎたり、また新聞がつまらなかったりして退屈でどうにもしようがないような時だけに、気慰めにのむに過ぎないのであった。
 それは早春のある日のことであったが、彼はノンビリした気持ちで私と公園へ散歩に出かけた。楡の木は若芽を吹き出しかけ、栗の木の頂きには若葉が出はじめていた。私たちは、特に話さなければならないような話題もなかったので、碌に口もきき会わずに二時間近くブラブラした。そして再びべーカー通りに帰って来たのは、もう五時近くであった。
「壇那さま、お留守にお客さまがお見えになりました」
 と、彼が入口の戸をあけると、給仕の子供が云った。
 ホームズは非難するかのように私をジロッと見た。
「少し散歩が長すぎたな」
 と云って、それから給仕に向って云った。
「それで、そのお客さまは帰っちまったのか?」
「ええ」
「中へ這入ってお待ちするようには言わなかったのかね?」
「いえ、中へお通ししたんです」
「どのくらい待ってたのかね」
「三十分ばかり。――でも、大変せっか…

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