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猫吉親方
ねこきちおやかた |
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作品ID | 43118 |
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副題 | またの名 長ぐつをはいた猫 またのな ながぐつをはいたねこ |
原題 | LE MAITRE CHAT OU LE CHAT BOTTE |
著者 | ペロー シャルル Ⓦ |
翻訳者 | 楠山 正雄 Ⓦ |
文字遣い | 新字新仮名 |
底本 |
「世界おとぎ文庫(イギリス・フランス童話篇)妖女のおくりもの」 小峰書店 1950(昭和25)年5月1日 |
入力者 | 大久保ゆう |
校正者 | 秋鹿 |
公開 / 更新 | 2006-03-10 / 2014-09-18 |
長さの目安 | 約 12 ページ(500字/頁で計算) |
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一
むかし、あるところに、三人むすこをもった、粉ひき男がありました。もともと、びんぼうでしたから、死んだあとで、こどもたちに分けてやる財産といっては、粉ひき臼をまわす風車と、ろばと、それから、猫一ぴきだけしかありませんでした。さていよいよ財産を分けることになりましたが、公証人や役場の書記を呼ぶではなし、しごくむぞうさに、一ばん上のむすこが、風車をもらい、二ばんめのむすこが、ろばをもらい、すえのむすこが、猫をもらうことになりました。すえのむすこは、こんなつまらない財産を分けてもらったので、すっかりしょげかえってしまいました。
「にいさんたちは、めいめいにもらった財産をいっしょにして働けば、りっぱにくらしていけるのに、ぼくだけはまあ、この猫をたべてしまって、それからその毛皮で手袋をこしらえると、あとにはもうなんにも、のこりゃしない。おなかがへって、死んでしまうだけだ。」
すえの子は、ふふくそうにこういいました。すると、そばでこれを聞いていた猫は、なにを考えたのか、ひどくもったいぶった、しかつめらしいようすをつくりながら、こんなことをいいました。
「だんな、そんなごしんぱいはなさらなくてもようございますよ。そのかわり、わたしにひとつ袋をこしらえてください。それから、ぬかるみの中でも、ばらやぶの中でも、かけぬけられるように、長ぐつを一そくこしらえてください。そうすれば、わたしが、きっとだんなを、しあわせにしてあげますよ。ねえ、そうなれば、だんなはきっと、わたしを遺産に分けてもらったのを、お喜びなさるにちがいありません。」
主人は猫のいうことを、そう、たいしてあてにもしませんでした。けれども、この猫がいつもねずみをとるときに、あと足で梁にぶらさがって、小麦粉をかぶって、死んだふりをしてみせたりして、なかなかずるい、はなれわざをするのを知っていましたから、なにかつごうして、さしあたりのなんぎを、すくってくれるくふうがあるのかもしれない、とおもって、とにかく、猫のいうままに、袋と長ぐつをこしらえてやりました。
二
猫吉親方は、さっそく、その長ぐつをはいて、袋を首にかけました。そして、ふたつの前足で、袋のひもをおさえて、なかなか気取ったかっこうで、兎をたくさん、はなし飼いにしてあるところへ行きました。そこで、猫は、袋の中にふすまとちしゃを入れて、遠くのほうへほうりだしておきました。そこから、袋のひもを長くのばして、そのはしをつかんだままじぶんはこちらに長ながとねころんで、死んだふりをしていました。こうして、まだ世の中のうそを知らない若い兎たちが、なんの気なしに、袋の中のものをたべに、もぐりこんでくるのを待っていました。あんのじょう、もうさっそく、むこう見ずの若い、ばか兎が一ぴき、その袋の中へとびこみました。猫吉親方は、ここぞ…