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アラビヤンナイト
アラビヤンナイト
作品ID43121
副題04 四、船乗シンドバッド
04 よん、ふなのりシンドバッド
原題SINDBAD THE SAILOR
著者菊池 寛
文字遣い新字新仮名
底本 「アラビヤンナイト」 主婦之友社
1948(昭和23)年7月10日
入力者大久保ゆう
校正者京都大学点訳サークル
公開 / 更新2004-11-22 / 2014-09-18
長さの目安約 65 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

 バクダッドの町に、ヒンドバッドという、貧乏な荷かつぎがいました。荷かつぎというのは、鉄道の赤帽のように、お金をもらって人の荷物を運ぶ人です。
 ある暑い日のお昼から、ずいぶん重い荷物をかついで歩いていましたが、しずかな通りへさしかかった時、大そうりっぱな家が立っているのが、目に入りました。ヒンドバッドは、その門のそばで、少し休むことにしました。
 その家は、とてもりっぱでした。ヒンドバッドは、まだこんなにりっぱな家を見たことがありませんでした。家のまわりの敷石の上には、香水がまいてありました。
 ヒンドバッドの足は、つかれて、熱くなっていたものですから、その敷石は大へん気持がようございました。
 そして、開いてあるまどからも、何ともいえぬいい香りが、におってきていました。
 ヒンドバッドは、まあ、こんなりっぱな家には、いったい、どんな人が住んでいるのだろうかと思いました。
 それで、玄関に立っている番人に、
「これはいったい、どなたの家ですか。」と、聞いてみました。
 この番人は、ずいぶん上等の着物を着ていましたが、ヒンドバッドの言葉を聞いて、目をまるくしました。そして、
「まあ、お前さんは、バクダッドに住んでいながら、私のご主人さまの名を、知らないというのかい。船乗のシンドバッドさまといって、世界じゅうを船で乗りまわして、世界じゅうで一番たくさん、ぼうけんをした方じゃないか。」
と、言ったのでした。
 ヒンドバッドも、今までたびたび、このふしぎな人の名前と、その人が大したお金持であるといううわさは、聞いていました。それで、ははあなるほどと思って、もう一度、その御殿のような家を見上げました。それからまた、上等の着物を着ている番人を、じろじろ見ていました。そのうち、だんだん悲しくなってきたし、また、ねたましくもなってきました。
「あああ。」ヒンドバッドは、そう、ため息をついて、荷をかつぎ上げました。そして、天をあおぎながら、ひとりごとを言ったのです。
「まあ、なんて、ここの家の主人と、私とは、ちがうのだろう。まるで、天と地とのちがいだ。ここの家の主人は、毎日々々、お金を使いたいだけ使って、その日その日を楽しく遊ぶよりほかには、何にもすることがないのに、私ときたら、朝から晩まで、せっせと汗を流して働いても、やっと、まずいパンを少しぽっちしか、買うことができないんだ。ああ、ああ、まあどうしてこの人は、そんなに仕合せになれたんだろう。そしてまた、私は、どうしてこう、年がら年じゅう貧乏なんだろう。」と。
 そして、三十メートルばかり歩いていると、一人の召使が追っかけて来て、後からヒンドバッドの肩をたたきました。そして、
「家のだんなさまが、お前さんに会いたいから、つれて来いと、おっしゃられた。さあ、ついておいで。」
 貧乏な荷かつぎは、びっくりしました。きっと、さっ…

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