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婦人と職業
ふじんとしょくぎょう |
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作品ID | 43135 |
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著者 | 倉田 百三 Ⓦ |
文字遣い | 新字新仮名 |
底本 |
「青春をいかに生きるか」 角川文庫、角川書店 1953(昭和28)年9月30日、1967(昭和42)年6月30日43版 |
入力者 | ゆうき |
校正者 | noriko saito |
公開 / 更新 | 2005-01-25 / 2014-09-18 |
長さの目安 | 約 6 ページ(500字/頁で計算) |
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今日の社会状態において、婦人を家庭へ閉じこめて、社会の生活戦線における職業に進出することを防ぐことは不可能である。このことはたとい理想的社会が実現されたる暁においても、当為としての法則として、婦人の就職を妨げるいわれはない。婦人も男子と同じく、その天分にしたがって、社会生活の職分を分担すべきである。それによって生活の充実と向上とまた個性の発展とをはかるべきである。実際今日においては職業婦人は有閑婦人よりも、その生命の活々しさと、頭脳の鋭さと、女性美の魅力さえも獲得しつつあるのである。われわれの日常乗るバスの女車掌でさえも有閑婦人の持たない活々した、頭と手足の働きからこなされて出た、弾力と美しさをもっている。働かない婦人はだんだんと頭と心の動きと美しさとにおいて退歩しつつあるように見える。女優や、音楽家や、画家、小説家のような芸術的天分ある婦人や、科学者、女医等の科学的才能ある婦人、また社会批評家、婦人運動実行家等の社会的特殊才能ある婦人はいうまでもなく、教員、記者、技術家、工芸家、飛行家、タイピストの知能的職業方面への婦人の進出は著しいものであるが、これらは将来理想的社会においても抑止さるべき理由はないであろう。
しかしながら婦人の職業的進出がそのまま婦人の生活向上、幸福増進の指標であると考えることはできない。今日の婦人の職業的進出は一面たしかに婦人の生活欲望の開発と拡充との線にそえるものではあるが、他面においては生活のための余儀なき催促によるものである。男子が独力で妻子を養うことができないための共稼ぎの必要によるものである。適当の収入さえあれば、夫への心をこめた奉仕と、子どもの懇ろなる養育と、家庭内の労働と団欒とを欲する婦人が生計の不足のためにやむなく子供を託児所にあずけて、夫とともに家庭を留守にして働くのである。婦人には月々の生理週間と妊娠と分娩後の静養と哺乳との、男子にはない特殊事情がある。これは自然が婦人に課したる特殊負荷であって厳粛なものでありこれがある以上、決して、職業の問題について、男子と婦人とを同一に考えるべきものではない。この意味においては、われわれは蘇露のコロンタイ女史の如く、一にも二にも託児所主義であって、男子も婦人も家庭外に出て働くのが理想的であるという考え方にはとうてい賛成できない。
子どもの哺乳と養育とは母親にとって、もっと重く関心と、心遣いせらるべきものである。動物的、本能的愛護と、手足の労働による世話と、犠牲的奉仕とが母性愛と母子間の従属、融合の愛と理解と感謝とに如何に大きな影響を持つかは思い半ばにすぎるものがある。人倫の根本愛の雛型である母子間の結紐を稀薄にすることが理想的社会の結合を暖かく、堅くするとはどうしても思われない。婦人は少なくとも三人や、四人の子どもは産んでくれねばならぬ。そして一人の子どもの哺乳や、添寝や…