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ヨーロッパ的性格 ニッポン的性格
ヨーロッパてきせいかく ニッポンてきせいかく
作品ID43145
著者坂口 安吾
文字遣い新字新仮名
底本 「坂口安吾全集 07」 筑摩書房
1998(平成10)年8月20日
初出「歴史小説 創刊号、第一巻第二号」1948(昭和23)年10月1日、11月1日
入力者tatsuki
校正者oterudon
公開 / 更新2007-07-26 / 2014-09-21
長さの目安約 35 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

 ヨーロッパとニッポンが初めて接触いたしましたのは、今から四百年ばかり前のことでありますが、その当時に、ニッポンの性格とヨーロッパの性格とが引き起こした摩擦とか、交渉とかいうものを私の見た眼から、皆さんにお話してみたいと思います。
 具合のいいことに、その当時ニッポンへやって来ました、皆さん御存知のいわゆるキリシタン・バテレンという、あれはカトリックのほうの宣教師なのでありますが、神父と申しますような人たちが、それぞれ故国へ手紙をやったり、報告を出したりしていまして、これらが今日残っておりまして、当時の事情を知るために非常に大切、貴重な文献となっております。
 ニッポンにも、この当時の事件とか事情とかを書いたいろいろの手記、記録というものがありますけれども、残念ながらニッポン製の資料というものは役に立たないのであります。殆んど駄目であります。
 それと申しますのが、ヨーロッパなどの外国の人たちの観察の方法と、ニッポン人の観察の仕方とは、本来的に非常に差異がありまして、ニッポン人はどうも物事を大いに偏って見る傾向がありまして、たとえば烈火のごとく怒ったとか、ハッタとにらんだとか、そんな風に云ってしまって、それだけで済ましてしまうという形が多いのであります。物事をそれらの物事そのものの個性によって見る、そのもの自体にだけしかあり得ないというような根本的にリアルな姿を、取得しておらないのであります。そういうことが、まことに不得意なのであります。
 でありますから、実例をとって申しますと、織田信長が本能寺で殺されました時のことを、「信長記」という本がありまして、それに書いてあるのを読んでみますと――
「明智光秀の軍隊はやにわに亀岡から下りて参りまして、本能寺を取り囲んで、ドッとばかり勝鬨をあげて、弓、鉄砲を打ちこんだ。本能寺のほうでも眼をさまして、中から豪傑連中が飛び出して、明智勢のなかに斬り込んだ。初めのうちは、明智勢がたじたじとなりましたが、そのうちにそれらの連中が討死しますと、だんだん寄手の勢いが強くなった。織田信長までが寺の廊下へ現われまして、片はだ脱いで槍を持ち出して、近づくやつを突き落した。そのうちに矢が片腕に当りましたので、部屋の中央にもどって来て、火をかけて自殺した」
 ――こんな風に書いてあるのであります。
 ところが、この当時に、この本能寺という寺のあった所から、約一丁ばかり離れた場所に、京都に於けるたった一つのキリシタンの教会があったのでありますが、この教会におりましたヨーロッパ生れの神父たちは、真夜中に戦争らしい物音に眼をさましたのであります。それからまァ、いろいろと避難の用意などをあれこれと致しまして、夜の明けるのを待ちまして、もっともたゞ黙って待っていたのではありません、尽せるだけの手段を尽してあらゆる方面から情報をあつめたのであります。…

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