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エマヌエル・カント『自然哲学原理』解説
エマヌエル・カント『しぜんてつがくげんり』かいせつ |
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作品ID | 43268 |
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著者 | 戸坂 潤 Ⓦ |
文字遣い | 新字新仮名 |
底本 |
「戸坂潤全集 第一巻」 勁草書房 1966(昭和41)年5月25日 |
初出 | 「カント著作集 第一一巻」岩波書店、1929(昭和4)年7月 |
入力者 | 矢野正人 |
校正者 | Juki |
公開 / 更新 | 2014-05-25 / 2014-09-16 |
長さの目安 | 約 74 ページ(500字/頁で計算) |
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〔訳者序より〕
………………………………………
一、訳者の「解説」の一部分は、Buek 上記の校訂版(Philosophische Bibliothek 新版 Metaphysische Anfangsgr[#挿絵]nde der Naturwissenschaft, 1786)に於て与えている序言から教えられたものであり、他の一部分はクーノー・フィッシャーの叙述に負うている。そして更に他の一部分は、其の他の人々の影響の下に立つ訳者の主観的な又暫定的な解釈に過ぎない。不当なそして又恐らく不充分な先導によって読者への礼を失うことがありはしないかを恐れる。読者は他の多くの場合に於てと略々同じく、今の場合に於ても亦、「解説」に依頼するべきではないであろう。
一九二八・七
東京にて
戸坂潤
[#改段]
解説
本文の成立
『自然科学の形而上学的原理』は『一般自然史及び天体論』と比較される時、その根本的特徴が明らかとなるであろう。前者と後者とはカントが自然乃至自然科学に関して著した書物の内、その中心的な意味に於て、その独創に於て、従って又その後世に与え又与えるべきであった影響に於て、双璧をなすものと云ってよい。後者は創見ある有名な仮説(カント・ラプラスの星雲説)に立脚して自然の終局の根柢を説明しようと企てた点に於て、一面純粋に自然科学的であると共に、他面之を哲学上の労作と見做すならば、それは批判期前の特色を有つと考えられなければならない(初版は一七五五年に出ている、そしてカント学者は一七七〇年を以て前批判期と後批判期とを分つのが常である)。之に反してわが著作は年代から云っても全く批判を通過した思想の成熟を示すものである。一七八一年の『純粋理性批判』の新しき哲学法は一切の文化領域に対して基礎を与えることを以てその任務とする、そしてかかる任務は『プロレゴーメナ』によって見誤る余地もなく繰り返えして主張された(一七八三年)。それ故自然乃至自然科学も亦そのような批判的基礎をカントから受けとらねばならぬ。『実践理性批判』に先立つこと二年、『判断力批判』に先立つこと四年、即ちカントの著作期の絶頂に算入すべき一七八六年にこの約束が果された。それがこの著作の初版である。晩年の未完成品『自然科学の形而上学的原理から物理学への推移』を除くならば、之はカントの自然哲学上の注目すべき作品の殆んど最後に位いするものである。
この書物がこのようにして明らかな批判的特色を有つにも拘らずこの書物の計画は前批判期の久しい前から之を発見することが出来る。この萌芽を宿す前批判期の自然科学的・乃至・自然哲学的な多くの著述の内でも、特に『活力の真の計算に就いての考察』(一七四六年)、『物理的単子論』(一七五六年)及び『運動と静止との新説』(一七五八年)の三者は、その問題から見てもその取り扱い…