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45回転の夏
よんじゅうごかいてんのなつ |
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作品ID | 4327 |
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副題 | 第3章 フルサークル、1991年 だいさんしょう フルサークル、せんきゅうひゃくきゅうじゅういちねん |
著者 | 鶴岡 雄二 Ⓦ |
文字遣い | 新字新仮名 |
底本 |
「45回転の夏」 新潮社 1994(平成6)年7月20日 |
初出 | 「45回転の夏」新潮社、1994(平成6)年7月20日 |
入力者 | 鶴岡雄二 |
校正者 | Y.N. |
公開 / 更新 | 2001-12-12 / 2019-08-28 |
長さの目安 | 約 133 ページ(500字/頁で計算) |
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31
でも、
さびしくなるといつも
あのヒコリーの風を
感じているふりをするんだ
ヒコリー・ウィンド
グラム・パースンズ(バーズ)
[#改段]
外も室内も静かになってたせいで、機械どもが吐き出すノイズが、このフロアを靄のようにつつんでいるのが、はっきりときこえるようになった。
コマンドを確認し、リターン・キーを叩き、プリンターに処理をわたす。すぐに点滅にもどったカーソルを、慶一は腹立たしげに見た。
デスクの両端におかれた、レンガより小さいくらいのスピーカーでは、エディー・コクランが、フェイドアウト処理を忘れたように、パタリと終わった。
右下の引出しをあけ、ちょっと考えこむ。そこには五〇枚近いCDが放りこまれているが、どれも、さして新鮮味は感じない。これが片づいたら、買い出しにいかなくては。
「滝口さん。もう、ヴォリュームをあげても大丈夫ですよ」
パーティションの上から、半月まえにこのフロアにやってきた男が顔をのぞかせて、景気よくやりましょう、というように慶一を見た。もう、ここにはふたりしかいない。
「じゃ、おまえの知ってるのをかけてやる」
「ビートルズぐらいしか知りませんよ、オールディーズは」
ビートルズがオールディーズと呼ばれる時代は、慶一には居心地が悪い。
「ジョンは、BGMにはしないんだ」
「ジョンて、ジョン・レノンのことですか?」
いつも、こういうところでつまずく。なにも説明なしに「ジョン」といったら、レノンであるのは、慶一には自明のことだった。ジョン・カーペンターやジョン・ベルーシやエルトン・ジョンはおろか、たとえジョン・フォードでも、たんにジョンなどと呼ぶわけがない。
「コーヒーいりませんか?」
慶一はうなずいて、リトル・リチャードを引き抜いた。ちょっと休んでおこう。マルチタスク機能は、機械が手いっぱいになっている、という口実をうばったが、習慣の力には勝てない。
すぐにスピーカーから、ペニマン氏の叫び声が流れる。これがあれば、覚醒剤などいらない。
「滝口さんなんかは、ビートルズ世代っていうやつでしょう」
という声といっしょに、マグが突き出された。
相手にはまったく悪意がないのだし、そもそも、そんなことばに悪意がこめられることすら、想像できないだろう。慶一はじぶんをなだめて、マグを受けとった。
「世間で “ビートルズ世代” って呼んでるのは、一九五〇年代前半に生まれた連中のことだと思う。そういう意味では、おれはそのひとりだけど、そのことばは釈然としない」
「どうしてですか」
相手は、レインボウ・カラーのリンゴがついたマグをもって、ポカンとしている。
「そのいい方だと、みんな楽しく、ビートルズを聴いてたみたいじゃないか」
「ちがうんですか」
「ちがうな。全然、そんなことはなかった。おれが中学に入ったとき、学年の一二四人中、ビ…