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驢馬の びっこ
ろばの びっこ |
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作品ID | 43410 |
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著者 | 新美 南吉 Ⓦ |
文字遣い | 旧字旧仮名 |
底本 |
「校定 新美南吉全集第四巻」 大日本図書 1980(昭和55)年9月30日 |
初出 | 「きつねの おつかい」福地書店、1948(昭和23)年12月5日 |
入力者 | 高松理恵美 |
校正者 | 川向直樹 |
公開 / 更新 | 2005-04-20 / 2014-09-18 |
長さの目安 | 約 3 ページ(500字/頁で計算) |
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張が かはいゝ 驢馬を 一匹 買ひました。ところが 歩かせて 見ると その 驢馬は びつこを ひくのです。
「なぜ びつこを ひくのだらう。」と 考へて 見ましたが わかりません。ちようど とほりかゝつた 物しりを よびとめて たづねて 見ると、物しりは、驢馬の 體を よく しらべてから いひました。
「耳と 耳の 間に 錢ほどの 禿が ある、この 禿に 風が あたつて 寒いから びつこを ひくのぢや。帽子を つくつて かむせたが、よからう。」
やつぱり 物しりだけ あつて、利口な ことを いふと 張は かんしんしながら、羊の 毛で 圓い 帽子を つくりました。それを 驢馬の 頭に かむせて、さて 歩かせて 見ると やつぱり びつこを ひきます。張は 物しりに だまされたと 思つて、まつかに なつて 驢馬を ひつぱつて ゆきました。
「人を だますにも ほどが ある。お前さんの いふとほり 帽子を かむせたが やつぱり びつこを ひくでは ないか。」すると 物しりは おちついて、
「いや こんな 帽子では いかん、驢馬の 耳を おしこむので 耳が いたいのぢや。」と いふのでした。なるほどと 思つた 張は、家に かへつて 帽子に 二つの 穴を あけ、そこから 二つの 耳を 出して やりました。ところが 歩かせて 見れば やつぱり びつこを ひきます。又 おこつて 物しりの ところへ がなりこんで ゆくと、
「いや あれでは、耳が 寒いから いけない。」と いひます。なるほど さうだつたと 思つて、こんどは、二つの 耳に 長い 袋を かむせました。けれど びつこを ひくのは 前と 同じ ことです。いよいよ 物しりめ、わしを だましたなと 思つて、げんこつを ふりあげながら とびこんで ゆくと、物しりは、
「まちなさい、お前さん とんまだね、あれぢや 耳が 聞えないぢや ないか。」と いひます。たしかに さうだ、と、張は 家に かへりましたが、こんどは どう して いゝのか さつぱり わかりません。袋に 穴を あければ 風が はいつて 寒いでせうし――。
張は 十日も 二十日も ろくろく ご飯も たべず 考へましたが、よい 考へは うかびません。ある 日 とほりかゝつた 村人を とらへて、
「この 驢馬の 耳が 聞えるやうに するには どう したら えゝでせうな。」と きゝますと、その 人は、
「なんでも ないよ、帽子を とつて やりなさい。」と こたへました。
「こいつは 名案だ。」と 叫んで、張は 帽子を とつて すてました。そして、驢馬の 耳に 口を つけて、
「驢馬 やーい。」と どなりました。すると 驢馬は くすぐつたくて、耳を 二三度 ぴくぴく させました。張は それを 見て、
「やあ 聞える 聞える。」と よろこんで おどりあがりました。…