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兎と猫
うさぎとねこ
作品ID43411
著者魯迅
翻訳者井上 紅梅
文字遣い新字新仮名
底本 「魯迅全集」 改造社
1932(昭和7)年11月18日
入力者京都大学電子テクスト研究会入力班
校正者京都大学電子テクスト研究会校正班
公開 / 更新2008-07-18 / 2014-09-21
長さの目安約 8 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

 わたしどもの裏庭の奥に住んでいる三太太は、夏のうち一対の白兎を買取り、彼の子供等の玩具にした。
 この一対の白兎は乳離れがしてから余り長くはないらしく、畜生ではあるが彼等の天真爛[#挿絵]を見出される。しかし真直ぐに立った小さな赤味を帯びた耳と、ぴくぴく動かす鼻と、どぎまぎした眼は、知らぬところに移って来たせいでもあろう。住みなれた家にいた時の安心さはない。こういうものは縁日へ行って自分で買えば、一つが高くとも二吊文に過ぎないが、三太太は一円払った。それはボーイをやって上店から買って来させたからだ。
 子供等はもちろん大喜びで、取囲んで見る。他にSという一匹の小犬がある。馳け出して来てふんふん嗅いでみて、嚔を一つして二三歩退いた。三太太は叱りつけ
「S、咬みつくと承知しないよ。よく覚えておいで」
 と彼の頭を掌で叩いた。Sはあとじさりしてそれから決して咬みつこうともしない。
 この一対の兎は結局裏窓に面した小庭の中に締め込まれている日が多かった。聞けば大層壁紙を破ることが好きで、またたびたび木器の脚を噛る。この小庭の内に桑の樹が一本ある。桑の実が地に落ちると、彼等はとても喜んでそれを食い、ほうれん草をやっても食わない。烏や鵲が下りて来ると、彼等は身を僂めて後脚で地上に強く弾みを掛け、ポンと一つ跳ね上る有様は、さながら一団の雪が舞い上ったようで、烏や鵲はびっくりして逃げ出す。こんなことがたびたびあるのでその後はもう近づいて来ない。三太太の話では、烏や鵲はちょっと食物を横取りするくらいだから一向差支えありませんが、憎らしいのは、あの大きな黒猫ですよ。いつも低い垣根の上で執念深く見詰めています。これは用心しなければならないのですが、幸いにSと猫と鼻突き合せているから、まだ何事も仕出かさないのでしょう。
 子供等は時々彼等を捉まえて玩弄にする。彼等はお愛想よく、耳を立て鼻を動かし小さな手の輪組の中におとなしく立っているが、少しでも、隙があれば逃げ出そうとする。彼等の夜の伏所は小さな木箱である。中に藁を敷き、裏窓の軒下に置いてある。
 このような日を幾月も送った後、彼等はたちまち自分で土を掘り始めた。掘り出しかたが非常に早く、前脚で掻くと後脚で蹶る。半日経たぬうちに一つの深い洞を掘り上げた。皆不思議に思ってよく調べてみると、一匹の腹が他の一匹のそれよりも肥えていた。彼等は二日目に枯草と木の葉を銜えて洞内に入り半日あまり急がしかった。
 衆は大に興じきっと小兎が出来るのだろうと言った。三太太は子供等に対して戒厳令を下し、これから決して捉まえてはなりませんぞという。わたしの母も彼等の家族の繁栄を喜び、生れて乳離れがしたら、二匹別けて貰ってこちらの窓下で飼ってみようと言った。
 彼等はそれから自分で造った洞府の中に住んで時々出て来ては何か食べていたが、後ではパッタリ姿を見…

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