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瘤とり
こぶとり |
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作品ID | 43461 |
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著者 | 楠山 正雄 Ⓦ |
文字遣い | 新字新仮名 |
底本 |
「日本の古典童話」 講談社学術文庫、講談社 1983(昭和58)年6月10日 |
入力者 | 鈴木厚司 |
校正者 | 林幸雄 |
公開 / 更新 | 2006-09-24 / 2014-09-18 |
長さの目安 | 約 10 ページ(500字/頁で計算) |
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一
むかし、むかし、ある所に、一人のおじいさんがありました。右のほおにぶらぶら大きな瘤をぶら下げて、始終じゃまそうにしていました。
ある日、おじいさんは山へ木を切りに行きました。にわかにひどい大あらしになって、稲光がぴかぴか光って、ごろごろ雷が鳴り出しました。そのうち雨がざあざあ降ってきて、うちへ帰るにも帰れなくなりました。どうしようかと思って見回しますと、そこに大きな木のうろを見つけました。しかたがありませんから、その中に入って、雨の小やみになるのを待っているうちに、いつか日はとっぷりくれてしまいました。
深い山の中には、もうきこりの木を切る音もしません。木のうろの外は、一面真っ暗やみの中に、すさまじいあらしが、うなり声を立てて通っていくだけです。
おじいさんはこわくって、こわくって、たまらないので、夜通し目も合わずに、うろの中に小さくなっておりました。
夜中になって、雨がだんだん小降りになり、やがてあらしがぱったりやみますと、はるか高い山の上から、なんだか大ぜいがやがや騒ぎながら、下りてくる声がしました。
おじいさんは今まで一人ぼっちで、寂しくってたまらなかったところですから、声を聞くとやっと生き返ったような気がしました。
「やれやれ、お連れが出来て有り難い。」
といいながら、そっとうろの中から顔を出してのぞいてみますと、まあどうでしょう、それは人ではなくって、ふしぎな化け物が、何十人となくぞろぞろ出てくるのです。青い着物を着た赤鬼もいました。赤い着物を着た黒鬼もいました。それが山猫の目のようにきらきら光る明かりを先に立てて、どやどや下りてくるのです。
おじいさんは肝をつぶして、またうろの中へ首を引っ込めてしまいました。そしてぶるぶるふるえながら、小さくなって息を殺していました。
鬼どもはやがて、おじいさんの居るうろの前まで来ますと、がやがやいいながら、みんなそこに立ち止まってしまいました。おじいさんは、「おやおや。」と思いながら、いよいよ小さくなっていますと、そのうちのおかしららしいのが、真ん中に座って、その右と左へ外の鬼たちがずらりと二かわに並びました。よく見ると目の一つしかないのや、口のまるでないのや、鼻の欠けたのや、それはそれは何ともいえない気味の悪い顔をした、いろいろな化け物が押しくらをしておりました。
そのうちお酒が出ますと、みんなお互いに土器のお杯をうけたり、さしたり、まるで人間のするとおりの、楽しそうなお酒盛りがはじまりました。
お杯の数がだんだん重なるうちに、おかしららしい鬼は、だれよりもよけいに酔って、さもおもしろそうに笑いくずれていました。すると下座の方から、一人の若い鬼が立ってきて、お三方の上に食べ物をのせて、おそるおそるおかしらの鬼の前へ持って出ました。そして何かわけの分からないことをしきりにい…