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金の十字架の呪い
きんのじゅうじかののろい
作品ID43496
原題The Curse of the Golden Cross
著者チェスタートン ギルバート・キース
翻訳者直木 三十五
文字遣い新字新仮名
底本 「世界探偵小説全集 第九卷 ブラウン奇譚」 平凡社
1930(昭和5)年3月10日
入力者京都大学電子テクスト研究会入力班
校正者京都大学電子テクスト研究会校正班
公開 / 更新2004-09-19 / 2014-09-18
長さの目安約 50 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

 六人の人間が小さい卓子を囲んで座っていた。彼等は少しも釣合いがとれずちょうど同じ、小さい無人島に離れ離れに破船したかのように見えた。とにかく海は彼等をとりかこんでいた。なぜならある意味において彼等の島はラピュタのような大きいそして飜る他の島にとりかこまれていたから。なぜならその小さい卓子は大西洋の無限な空虚を走ってる、巨船モラヴィアの食堂に散らばってる多くの小さい卓子の一つであった。その小さい仲間は皆アメリカから英国への旅行者に他ならなかった。彼等の二人はとにかく名士と呼ばれるかもしれない、が他の人々は名の知れないものであった。そして一二の点において信頼し難くさえあった。
 その最初は前ビザンテン帝国に関しての考古学上の研究の権威である、スマイル教授であった。アメリカの大学において講ぜられた、彼の講演は欧洲において最も権威ある学府においてさえ最上の権威として受け入れられた。彼の文学上の仕事は欧洲の過去について円熟した想像力に富む共鳴に非常にひたされていた。それでそれはアメリカ人の抑揚で彼が話すのを聞く未知の人にしばしば驚喜を与えたほどであった。しかし彼は彼の態度においては、むしろアメリカ人であった。彼は長い美しい髪を大きな四角な額からかきなでていた。そして長い真すぐな恰好と次の飛躍にうっとりと沈思してるライオンの様な、潜勢の迅速さの平均を持つ先入見の奇妙なる混合を持っていた。
 その仲間にはただ一人の婦人がいた。彼女は(新聞記者が彼女についてしばしば言ったように)彼女自身における主人であった。それにおいても、ある時はいかなる他の卓子においても、女王とは言わない。女将の役を演ずるべくすっかり用意をしていた。彼女は熱帯や他の諸国における著名な婦人旅行家の、ダイアナ・ウェルズ夫人であった。彼女自身は暑苦るしく重々しい赤い髪を持ち、熱帯風に美しかった。彼女は新聞記者連が大胆な流行と呼ぶ様に装っていた。が彼女の顔は聡明そうで彼女の眼は議会において質問をする婦人達の眼によく見られる輝きとかなり目立った様子をしていた。
 他の四人の姿は最初この目に立つ存在の中では影のように見えた。しかし近よって見ると彼等は相違を示した。彼等の一人は船の名簿にはポール・テ・ターラントと載ってる青年であった。彼は真にアメリカ人の模範と呼ばれても差支えのないようなアメリカ人型であった。彼はおしゃれでまた気取り屋である。富める浪費者はよくアメリカの小説にあるように柔弱な悪人を造る。ポール・ターラントは着物を着かえる他には何にもなす事がないように見えた。薄明のデリケートな銀色の月のように、美くしい明るい灰色の彼の衣裳を淡色やまたは豊かな影に替えて、彼は日に六度しかも着物を替えた。最もアメリカ人らしくなく彼は非常に細心に短かい巻いた髯を生やしていた。そしてまた最もおしゃれらしくなく、彼自身の型から…

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