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うぐいす
うぐいす
作品ID43538
著者原 民喜
文字遣い新字新仮名
底本 「原民喜戦後全小説下」 講談社文芸文庫、講談社
1995(平成7)年8月10日
初出「愛媛新聞」1951(昭和26)年2月号
入力者Juki
校正者土屋隆
公開 / 更新2007-11-15 / 2014-09-21
長さの目安約 3 ページ(500字/頁で計算)

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本文より




 梅の花が咲きはじめました。学校の門のところにある梅も、公園の池のほとりにある梅も、静かに花をひらきました。雄二の家の庭の白梅も咲きました。花に陽があたると、白い花はパッとうれしそうにかがやきます。日蔭の枝にある花は静かに青空をながめています。梅の花はみんなじっと何かを待っているようでした。
 雄二の家の庭さきに、ある朝、うぐいすがやって来ました。ホーホケキョ ホーホケキョ うぐいすは梅の枝にとまって二声三声さえずりました。が、すぐにへいをとびこえて、どこかへとんで行ってしまいました。
 その翌朝もまたうぐいすがやって来ました。こんどは、雄二の家の庭が気に入ったのか、少しゆっくりしているようでした。うぐいすは梅の木の枝から枝へ上手にとびうつって遊んでいました。が、しばらくすると、またへいをとびこして行ってしまいました。
 うぐいすは毎朝やって来て、だんだん雄二の家の庭を好きになるようでした。縁側の方から雄二たちが見ていても、あわてて逃げだすようなことはありません。
 日曜日の朝でした。
『よし、あのうぐいすを一つ写真にうつしてやろう』と、雄二の父は早速カメラを持って縁側に現れました。
『とれた、とれた、うまくとれたぞ』
 父はうれしそうでした。雄二もどんな写真が出来るのか早く見たくてたまりませんでした。五日ほどして、うぐいすの写真は出来上りました。それは庭の黒べいと梅の枝が黒くうつっていて、白い花とうぐいすの姿がくっきりと浮出ている、すばらしい写真でした。雄二は父からその写真を一枚もらいました。
 けれども、その写真が出来た頃から、うぐいすは雄二の家の庭に姿を見せなくなりました。どうしたのかしら、どうしたのかしら、と、雄二はしきりにさびしくなりました。
 雄二はうぐいすの写真をポケットに入れて学校へ行きました。
『僕のうちに来ていたうぐいすだよ』
『そうかい』と、山田君は目をみはりました。
 雄二は山田君をつれて、家にもどって来ました。が、庭に来てみても、やはりうぐいすはいませんでした。雄二と山田君はその写真と庭の梅の木を見くらべて調べてみました。ちょうど、あのうぐいすがとまっていた枝が見つかりました。
『あそこのところにとまっていたのだね』
『うん、あそこのところだ』
『あそこのところに何かしるしつけておこう』
 山田君はポケットから白いひもを取出しました。そして、それをうぐいすのとまっていた枝のところに結びつけました。



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