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金剛智三蔵と将軍米准那
ヴァジラボードヒさんぞうとしょうぐんミールザーダ
作品ID43554
著者榊 亮三郎
文字遣い旧字旧仮名
底本 「榊亮三郎論集」 国書刊行会
1980(昭和55)年8月1日
初出「大乗 第二二卷第七號」1943(昭和18)年7~12月
入力者はまなかひとし
校正者土屋隆
公開 / 更新2008-04-05 / 2014-09-21
長さの目安約 49 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

 私は大正二年六月十五日、本校に於て開催せられた宗祖大師の降誕記念會の講演に、「大師の時代」と題した一場の講演を致しました。其の時より今日に至るまで、支那流で申しますれば、裘葛約三十年になりますが、其の間に於ける我が國の東洋學の進歩は驚歎すべき程のものであり、佛教に關する研究も、幾多英俊の士が輩出して長足の進歩を致しましたが、西洋の所謂東洋學者の研究も中々に進んで居りまして、殊に從來研究の資料が缺乏して居つたため、とかくに忽諸に附せられて居た支那日本の密教研究も、眞言宗では、碩學長谷寶秀大僧正等の御盡力により、幾多の貴重なる研究資料が本校から出版せられ、また新義眞言宗では、權田雷斧大僧正、富田[#挿絵]純大僧正等の秘密辭林の出版以後、智山、豐山の龍象の方々が幾多の貴重なる研究を發表せられ、其の内容は内外の密教學者を刺戟したものと見えまして、或は梵語の材料から或は西藏方面蒙古滿洲の方面から集めました材料などを基礎と致しました研究が、續々發表せられて居ります。就中、昨年物故致された大谷派出身の西藏學者で、京都帝大文學部講師大谷大學の教授であつた寺本婉雅師が、金剛智三藏の入唐に先だつ數年前吐蕃即ち西藏から入唐せられ我が國へも元正天皇の御宇の養老年間に來朝せられたことがあるとまで傳へらるゝ密教の高僧善無畏の御名前は、梵名は戍婆羯羅僧伽であるから淨獅子と譯するは納得出來るが、「善無畏」と云ふは畢竟戍婆羯羅の西藏譯 Bzan[#nは上ドット付き]-byed の音譯に外ならぬことを世に發表せられたのは、敬服の外はない。また佛國の官吏で、永らく支那または佛領印度に於て司法官として勤務し、檢事總長まで勤めたギユスターブ・ツサンと云ふ方は、煩雜極まる司法事務鞅掌の餘暇を以て、金剛智三藏の南印度から入唐せるに對し、北印度のウデイヤーナ(Udy[#挿絵]na)國から西藏に入つて、印度密教を西藏に扶植した蓮花生菩薩(Padma-sambhava[#2つめのmは上ドット付き])の傳記 Padahi[#hは下ドット付き]Tan-yik を、十數年の星霜を費して西藏原典から流麗な佛蘭西語の詩に譯し出版せられ、世界の學者を驚歎せしめた。私も著者より一本の寄贈を受け、再三通讀致しましたが、從來、米人で支那の駐剳公使であつたロツクヒルや、英人で英領印度駐屯軍附きの軍醫ワツデル(Waddel)などの著述で、蓮花生菩薩と西藏本來の宗教「ボンパ」教の道士等との爭を概略しか知るより外はなかつた私どもには、ツサン氏の名著で洵に精しく知ることが出來て、西藏に於ける密教の發展の徑路を髣髴と眼前に浮び出すやうに感ぜられて、室町時代の末期に出來たと思はるゝ宗祖大師の繪傳抄などと比較して、甚だ興味を覺える次第であります。其の外、内外學者の御著述など、拜讀致す毎に種々の點に於て教へらるゝこと多きは常に感謝の外はありま…

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