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物理学革新の一つの尖端
ぶつりがくかくしんのひとつのせんたん
作品ID43643
著者長岡 半太郎
文字遣い旧字旧仮名
底本 「随筆」 改造社
1936(昭和11)年11月20日
初出「大阪朝日新聞」1932(昭和7)年1月4日
入力者小林徹
校正者kamille
公開 / 更新2006-10-25 / 2014-09-18
長さの目安約 10 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

 二十世紀は物理學革命の時期を畫してゐる。ニゥトン以來二百餘年、多少の波瀾を交へて徐々に進歩して來た物理學は、前世紀の末ごろ大なる障碍に逢うて、遂にその針路を轉換せねばならぬやう餘儀なくされた。
 分子や原子に關する研究は、在來の方法では始末に終へなくなつた。第一の暗礁は輻射に關する法則であつて、波長が短くなるに從つて、エネルギーは著るしく集積してくる結果を、古式の理論は提唱した。しかし實驗はこれに對して反證を擧げた。この思ひ懸けない暗礁を乘り越す手段として、プランク(獨人)は輻射は量子的發作に輻射するものと假定し、舵を操つて見たが、幸に實驗に符合する結果を得た。これが一九〇〇年に發表された畫期的論文であつて、輻射エネルギーの量子は、振動數に恒數をかけたもので表はせると論じた。爾來この恒數は、あらゆる類似の現象を考究するに用ひられ、驚くべき好結果を齎した。しかしてこの恒數をプランク恒數と名づけることは、吾人の敢て憚らぬことである。
 その物理的意味を探すに、學者は大に腐心した。アインシュタィンは相對原理に含まれてゐるだらうと推察し、多年これを討究したけれども、どうしても追跡し得ないとの話であつた。誰も失敗の歴史は公表したくないから、彼が辿つた道筋は不明であるけれども、この恒數の的確なる意味を探し出せば、大なる發見である。
 輻射エネルギーが量子的である議論が發表された曉には議論が沸騰した。多くの事物は連續的であるのに、輻射がそんなものであらうとは、突飛な假説であると、古風な學者は非難した。しかし他方面から考へて見ると、全然謂れない空想ではないことが判る。電子の存在は、その時すでに判明してゐた。アルファ粒子の荷電は確かに電子の二倍の陽電荷を有つてゐる。またその質量は水素原子の四倍である。しかして、すべての化學元素の原子の質量は、水素原子の倍數であることは、その後に確かになつた。中に鹽素の如き三五・五倍であつて、何だか疑はしくあつた。三五とも考へられ、三六とも註せられる。よく/\測定して見ると、同じ元素であつても原子の核は違つた質量を有つてゐるものがある。鹽素の原子核は、水素原子核の三五倍のものと、三七倍のものとが混交してゐて、普通は平均値三五・五になるやうな割合になつてゐることが發見された。かやうな元素は同位元素と名づけられた。
 このやうな元素は化學元素中大部分を占めてゐる。例へば水銀は六つの同位元素の混合體である。換言すれば元素は水素原子を單位として、倍數の質量をもつてゐる。然らば諸元素からできてゐる物質も、また量子的に構造されてあることは必然である。同位元素の研究は、今なほ進行中である。同位元素間に微少の物理的差違があるけれども、化學作用においては變りがない。今假りに輻射エネルギーがこんなものであるとすれば、別に量子となすも困難はないのである。況や、相對…

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