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ヤトラカン・サミ博士の椅子
ヤトラカン・サミはかせのいす
作品ID43648
著者牧 逸馬
文字遣い新字新仮名
底本 「ひとりで夜読むな」 角川ホラー文庫、角川書店
1977(昭和52)年10月15日
初出「新青年」博文館、1929(昭和4)年10月号
入力者網迫、土屋隆
校正者門田裕志
公開 / 更新2007-10-24 / 2014-09-21
長さの目安約 27 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

       1

 マカラム街の珈琲店キャフェ・バンダラウェラは、雨期の赤土のような土耳古珈琲のほかに、ジャマイカ産の生薑水をも売っていた。それには、タミル族の女給の唾と、適度の蠅の卵とが浮かんでいた。タミル人は、この錫蘭島の奥地からマドラスの北部へかけて、彼らの熱愛する古式な長袖着と、真鍮製の水甕と、金いろの腕輪とを大事にして、まるで瘤牛のように山野に群棲していた。それは「古代からそのままに残された人種」の一つの代表といってよかった。彼らは、エルカラとコラヴァとカスワとイルラの四つの姓閥からできあがっていた。そして、そのどれもが、何よりも祖先と女の子を尊重した。祖先は、タミル族に、じつは彼らが、あの栄誉ある古王国ドラヴィデアの分流であることを示してくれるのに役立ったから、彼らはその祭日を忘れずに、かならずマハウェリ・ガンガの河へ出かけて行って、めいめいの象といっしょに水掃礼を受けた。が、女の子を歓迎したのは、そういう民族的に根拠のある感情からではなかった。女は、彼らにとって、家畜の一種としての財産だったからだ。女の子が生まれると、彼らはそれを、風や雑草の悪霊から保護して育てて、大きくなるのを待ってコロンボの町へ売りに出た。この、タミル族の若い女どもを買い取るのは、おもにそこの旅客街のキャフェだった。女給にするのだ。ことに、ポダウィヤの酋長後嗣選挙区にある、ポダウィヤ盆地産の女は値がよかった。なぜといえば、イギリス旦那の「文明履物」のようなチョコレート色の皮膚と、象牙の眼と、蝋引きの歯、護謨細工のように柔軟な弾力に富む彼女らの yoni とは、すでに英吉利旦那の市場においても定評がなかったか?

       2

 We beg to inform Travellers to Ceylon that we issue, under special arrangements with the Governments of Ceylon and of India and Burma, tickets over all Railway Lines, and keep complete and detailed information of everything pertaining to travel in Ceylon, India and Burma−.
 こういう、暑い夜の冒険を暗示する旅行会社の広告文書である。この小冊子的煽情に身をあたえて、せいろんへ、せいろんへ、せいろんへ、山高帽をへるめっとに替えた英吉利人が、肩からすぐ顔の生えているじゃあまんが、あらまあと鼻の穴から発声する亜米利加女が、肌着を洗濯したことのない猶太人が、しかし、仏蘭西人だけは長い航海を軽蔑して、本国で葡萄酒のついた口ひげをていねいに掃除しているあいだに各国人を拾い上げたお洒落な観…

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