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科学が臍を曲げた話
かがくがへそをまげたはなし
作品ID43663
著者海野 十三 / 丘 丘十郎
文字遣い新字新仮名
底本 「海野十三全集 別巻1 評論・ノンフィクション」 三一書房
1991(平成3)年10月15日
初出「新青年」1934(昭和9)年9月号
入力者田中哲郎
校正者土屋隆
公開 / 更新2005-07-23 / 2014-09-18
長さの目安約 9 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

 みなさん、科学だって、時には気むずかしいことがありますよ。そんなときには、臍を曲げちまいますよ、臍をネ。
 童話みたいですが、昔、オーストリヤの王様が、世界最大のダイヤモンドを所有したいという欲望を持って、持っているだけのダイヤを全部坩堝に入れて融合させようと思ったところが、もともと炭素のかたまりであるダイヤは、忽ち一陣の炭酸瓦斯と変じて、空中に掻き消えたという昔話があります。これも臍まげの一つです。
 この時代、天下を横行した錬金術というのは、頗る大きな目標を持っていました。万物何でも金に変えるというのです。到るところで錬金術師は鞴を吹いたりレトルトを炙ったりしましたが、遂に成功しませんでした。何でも、「哲学者の石」というのがあって、それさえ使えば万物が黄金にかわる筈だと云い出したものがいて、今度は哲学者の石を探し歩く宝探しのようなことが始まりました。これも遂に駄目だったことは、今日金の高いことによって皆さんご存知のとおりです。
 しかし科学の上に於ける失敗は、他の失敗と違って、失敗しぱなしで終るものではありません。錬金術のお蔭で、化学というものが大変発達しました。日本には錬金術師が居なかったお蔭で、化学というものは一向に芽をふいて来ませんでした。――而して、近代になって、長岡半太郎博士は水銀を金に変化する実験に成功して、遂に人類の憧れていた一種の錬金術を見出したわけです。その方法は、水銀の原子の中核を、α粒子という手榴弾で叩き壊すと、その原子核の一部が欠けて、俄然金に成る。つまり物質は、金とか鉛とか酸素とか水銀とか云うが、これを形成している物質は共通であり、唯それに含有せられている数が違うために、いろいろ違った物質となっているものだという見地から、この名案が考え出されたのです。
 しかし科学は矢張り臍まがりで、この方法はまだ実用に遠く、金には成るには成るが、顕微鏡で探さねばならぬ程ですから、費用仆れで金にはならない。……だが油断は出来ませんぞ。最近になって人造宇宙線の研究が俄かに盛んになりましたが、この研究が進むといよいよこの人造宇宙線を使って、水銀を金に化することが他愛もなく出来るようになりそうな気がします。勿論そうなったからといって悦ぶのは早い。金が簡単に出来るようになったら、今日一匁十何円也という金が、一匁一銭也位になるでしょうから、いくら金がドンドン手に入っても仕方がないでしょう。まあそのときは、鼻紙に金でもって頭文字でも入れることですネ。
 宇宙線の人造ということも面白い問題ですが、その宇宙線と並んで現代で人気のあるのは超短波でしょう。
 超短波というと電波の一種で、波長がたいへん短い。一メートルから十メートル位の間のものです。ラジオ放送に使っているのは二百から五百メートルですから、いかに短いかということが判りましょう。
 この超短波について…

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