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あの世から便りをする話
あのよからたよりをするはなし
作品ID43667
副題――座談会から――
――ざだんかいから――
著者海野 十三
文字遣い新字新仮名
底本 「海野十三全集 別巻2 日記・書簡・雑纂」 三一書房
1993(平成5)年1月31日
入力者田中哲郎
校正者土屋隆
公開 / 更新2005-01-26 / 2014-09-18
長さの目安約 10 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

 僕の友達で人格も高く、学問の上からも尊敬され、友人からも非常に尊敬されていた男があったんです。それが不幸にして最愛の細君を失いました。
 或る日、その友達が私の所へ来て、「『心霊研究会』というものがあって、其処に実に素晴しい霊媒が見付かった。自分は今まで研究をして居ったけれども、これ以上の霊媒はない」事実、霊媒を通じて奥さんと話をすると、いろいろ符合する所があるそうで、例えば奥さんが夫には内緒で、指輪を奥さんの妹に買ってやった。それを先方で言い出したのです。「あなたに内緒で妹に指輪を買ってやりましたが、誠に済みませんでした」と言った。これこそ誠に絶好なものであるというので、家へ帰って死んだ細君の妹に聞いて見ると、まさしくその通りでした。その中に細君が夫の科学的興味に共鳴をして、あの世の話をいろいろして呉れたのです。例えばあの世に行けば皆んなが神様のお祠みたいな所へ入って、朝から晩までお勤行をしているというような事や、空中を白い着物を着て飛んで行ける事や、大体野原で、机が出て来いと言うと机が忽ち出て来る。こういう物が欲しいと思えば直ぐ眼の前に現れるという、洵にお伽噺の世界みたいです。それから守護神というのが附いて居って、この守護神は青年団の団長みたいに、沢山後からやって来る霊の世話をする。死んだ当時は非常に世の中が暗いが、だんだん修行している中に視力が恢復して来る。つまり夜が夜明けになって昼間になって来るように、だんだん明るくなる。百年も経てば丁度真昼のように四辺が明るくなる。細君もかなり修行したけれども、それでもまだまぶしい位の明るさしかない。そういうようないろいろ話をしまして、その守護神というものに頼めば、大体どんなことでもして呉れる。自分が今あなたに言って居るのも、その守護神の許しを受けて、又その守護神の庇護に依ってあなたに言って居るのだというような話をして、結局私の友達は、未来の世界があることをよく知ることが出来たが、その未来の世界なるものには一向どうも科学者が働いていないように思えた。自分の現在この世でやっている科学というものは、結局どうも無駄なものである。向うの世の中へ行ってやる科学こそ、最も最後的なものである。それから細君と前後六十回も話をしたでしょうか、私も一緒に行けと言われたんですが、遂に私は行かなかった。友達は私を詰問って言うことに、君も細君を亡くしているくせに、何という細君不孝だ。是非共細君を呼んで死んでるという自覚を起さしたり、その他いろいろやってやらないと、死んだ細君は浮ばれないぞ、と叱るのです。
 その中に友達は遂に自殺をしました。早速私共も行きましたが、千葉の勝浦の権現堂のある山の頂上で死んでいました。其処は死んだ細君と知合になった当時、能く両人が散歩した所だそうで、而も死んだのは、彼のみならず、夫婦の間に出来た、たった一人の子…

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