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作品ID | 43686 |
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著者 | 倉田 百三 Ⓦ |
文字遣い | 新字新仮名 |
底本 |
「出家とその弟子 他一編」 旺文社文庫、旺文社 1965(昭和40)年12月10日 |
初出 | 「新小説」1919(大正8)年12月 |
入力者 | 藤原隆行 |
校正者 | 川山隆 |
公開 / 更新 | 2006-11-15 / 2014-09-18 |
長さの目安 | 約 89 ページ(500字/頁で計算) |
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人
法勝寺執行俊寛
丹波少将成経
平判官康頼
有王(俊寛の昔の家僮)
漁夫(男、女、童子ら数人)
丹左衛門尉基康(清盛の使者)
その従者 数人
船頭 数人
時
平氏全盛時代
所
鬼界が島
[#改ページ]
第一幕
鬼界が島の海岸。荒涼とした砂浜。ところどころに芦荻など乏しく生ゆ。向こうは渺茫たる薩摩潟。左手はるかに峡湾をへだてて空際に硫黄が嶽そびゆ。頂より煙をふく。ところどころの巌角に波砕け散る。秋。成経浜辺に立って海のかなたを見ている。康頼岩の上に腰をおろして木片にて卒都婆をつくっている。
成経 あゝとうとう見えなくなってしまった。九州のほうへ行く船なのだろう。それとも都へのぼる船かもしれない。わしの故郷のほうへ。
康頼 どうせこのような離れ島に寄って行く船はありませんよ。そんなに毎日浜辺に立って、遠くを通る船を見ていたってしかたがないではありませんか。
成経 でも船の姿だけでもどんなになつかしいか。灰色にとりとめもなく広がる大きな海を見ているとわしは気が遠くなってしまう。わしとは何の関係もないように、まるで無意味で、とりつくしまもないような気がする。せめて向こうに髪の毛ほどでもいいから、陸地の影が見えてくれたら。
康頼 それは及びもつかない願いでございます。ここからいちばん近い薩摩の山が、糸すじほどに見えるところまで行くのでも、どんな速い船でも二、三日はかかると言いますから。
成経 でも船の姿がほんのちょっとでも見えるとわしには希望の手がかりがつくような気がします。
康頼 それで毎日毎日海ばかり見ているのですか。
成経 十日に一度くらいは白帆のかげが見られます。でもはれた日でないと雲がかかって見えません。だからしけの日はわしにとって実に不幸な日です。朝起きて見て雲が晴れていると、あゝ、きょうもまた浜辺に立って船の見えるのを待とうと思って希望がわきます。
康頼 希望という言葉はほんとうにわしたちにとってありがたい、けれど身をきるような響きを持って聞こえますね。
成経 希望、そうだ希望だ。船の姿はわしの一縷の希望だ。だってそれででもなくて何をたのしみに生きるのだろう。もしも何かの不思議であの遠くを通う船がこっちにやってくるかもしれない。
康頼 それは神仏の力でなくてはとてもできることではありません。
成経 それであなたは毎日卒都婆をつくって流すのですか。
康頼 きょうでもう九百九十五本流しました。もう五本流せば、熊野権現様にたてた誓いのとおり、千本という数になります。
成経 あ。また白帆が見える。ほんとにかすかで、よく見なくては鴎とまちがうくらい小さいけれど。来てごらんなさい。
康頼 わしは見ますまいよ。
成経 早く見ないとかくれてしまう。あなたは初めはわしといっしょに毎日船を見にいらしたではありませんか。
康頼 けれどとてもこの島…