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株式会社科学研究所の使命
かぶしきがいしゃかがくけんきゅうじょのしめい
作品ID43703
著者仁科 芳雄
文字遣い旧字旧仮名
底本 「自然 300号記念増刊 総収録 仁科芳雄・湯川秀樹・朝永振一郎・坂田昌一」 中央公論社
1971(昭和46)年3月20日
初出「自然」1948(昭和23)年6月
入力者山崎雅人
校正者小林徹
公開 / 更新2005-12-01 / 2014-09-18
長さの目安約 3 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

 財團法人理化學研究所は大正6年創立せられ,基礎科學の研究とその成果の應用とに盡して來たのであるが,近年の經營方針として,その研究によつて得られた發明特許を實施する多くの會社を設立し,これにより研究所の財政を維持しようと企圖したのである.これは持株會社の性格をもつものであつたから,連合軍總司令部の方針に從い,解體せられてここに滿31年の歴史を閉じることになつた.然し研究所既往の業績は内外の均しく認めるところであり,司令部においても日本の産業復興のため,その研究活動は1日も停止すべからざるものとし,かかる場合に産業界において執られると同じ方法により,これを第二會社として存續せしめることに多大の指導と援助とが與えられて來た.
 然るに財團法人を株式會社に變形するについては特別の法律を必要とするので,特に單獨法として國會を通過した「財團法人理化學研究所に關する措置に關する法律」が昨年11月17日に公布せられ,これに從つて理化學研究所が發起人となり研究に必要な土地・建物・設備などを現物出資して株式會社科學研究所を設立し,會社は舊理研の研究陣容を受けついで去る3月1日をもつて發足したのである.
 然らば科學研究所の使命である産業復興に對する方策はどうであろうか.それは一言にして盡せば,基礎科學の研究とその成果の産業に對する應用である.これは從來も理化學研究所が行つて來たことであつて,純粹の學理の研究を始めとし,これが應用研究,更に進んではその産業化研究を行い,又場合によつてはその成果を實施してある程度の生産をも營むという,極めて廣汎な活動を企圖するものである。元來産業の基礎をなす純學術の研究が深く且つ廣い程,この上に築かれる應用效果の大きいことは周知の事實であつて,今日の産業技術を開拓する新生面が常に純科學にその源泉を發しておることは,例えば原子力の問題を見ても明かである.
 從來の理研はとかく孤立した研究室制度の弊に陷り易かつたのであるが,上述の使命を果たすに當つては,各研究室は有機的に連繋を保ち,一大綜合研究所の實を擧げることに努力しつつある.今日の資源の貧困は産業に多くの隘路を提供しているが,その技術上の難問打開に當つては,研究所の純學理研究者も應用研究者も一體となり,各々その專門的見地から全力を擧げて根本的解決を圖る方針であつて,この點は單なる對症療法に止まるものであつてはならぬ.そして從前よりも一層公共的性格をもつて,産業界一般の相談にあずかることによつて,多少なりとも技術の向上と産業の復興とに寄與したいと思つている.
 以上は科學研究所運營の理念であるが,これが一つの會社である限りその經理面を無視することはできない.吾々は自分の額に汗したパンを食べて理想に邁進せねばならぬ.從つて前述の基礎研究,應用研究,産業化研究,及び生産事業の割り振りも,今日の産業界の…

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