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図書館法楽屋話
としょかんほうがくやばなし
作品ID43728
著者中井 正一
文字遣い新字新仮名
底本 「論理とその実践――組織論から図書館像へ――」 てんびん社
1972(昭和47)年11月20日
初出「法律のひろば」1950(昭和25)年7月
入力者鈴木厚司
校正者宮元淳一
公開 / 更新2005-07-18 / 2014-09-18
長さの目安約 8 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

 この議会で図書館法が通過したことは、全図書館人にとって、まことに感慨深いものがあるのである。
 人々にとって、予算の背景のないあんな法案が何になるかという感じもあるであろうが、あの法案があの形になるまでには、いろいろの山もあれば河もあったのである。戦い敗れた国の文化法案の一つの類型的な運命を担っていたとも思えるのである。ここに少しふりかえってみたい。
 ソヴィエートで図書館の数が不明確ではあるが二十八万五千といわれ、アメリカで一万一千三百(一九四五年)といわれているとき、日本ではそれに相当する規格の図書館は僅かに三百にすぎないのである。届出の千三百の日本の図書館は、それはほんの図書室といえるものまで数えてである。
 この世界における驚くべき日本の現在の貧しさを平均化すべく、C・I・Eは昭和二十一年の三月にまず最初の行動に移ったのであった。キニー氏のつくった文部省ならびに図書館界の準備的会合である。まず在京及び近県有志と文部省より出発して、全国中央図書館会議にまでそれは発展したのであった。
 いろいろの要綱案が、二十二年度において練られ、ネルソン氏もこれに援助の手をさしのべるに至ったのであった。二十三年度に入るや、中央ではバーネット氏を中心に研究会が開かれ、地方よりは館界の意見をあつめるために、九月公共図書館法委員会を開き、いわゆる協会案なるものが出来上ったのである。中央は予算通過困難を予想して案の財政措置を縮小せんと苦慮するし、地方の館界はできるだけ補助を得ようとして膨らまそうとするのは自然の勢いであって、ここに案自体が揉みに揉むというかたちになったのである。
 そのことは文部省の中でもその矛盾の対立を生むし、館界でもまた、硬軟両論が相対したのである。文部省では、すでに社会教育法が二十四年度の提出法案として重要法案となっていたので、この中に図書館法案をくみ込んで公民館と図書館とを一連の組織体としたらと、課長会議は傾いていったのである。このことが館界に万一聞えると、大反撃を受ける可能性があるので、文部省はひそかに枚をふくんでこの案を進めていたのである。そして図書館法案は、かかる複雑な関係で、国会不提出の運命を多分にもちながら省議を通過したのである。いわば社会教育法の後ろ盾として、つっかえ棒の役割で目白押し法案の一つとなって行列の一つとなっていたのである。それを知らずに図書館界は、「省議通過」の飛電一閃、全国網を動員して、雀躍バーネット氏その他関係方面に猛運動したのであるが、思えばいつでも歴史は常に狡智に満ちた悪戯をするものではある。
 この頃から協会は、ほんとうに腹を据えはじめた。夢のような甘い考えをすてなければならないこと、この現実の冷厳さの中に本気に立ち直るすべを知ったのであった。「法案の流線型化」という妙な言葉を考えついたのも六月の大阪における日本図書…

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