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|  『注文の多い料理店』序 『ちゅうもんのおおいりょうりてん』じょ | |
| 作品ID | 43735 | 
|---|---|
| 著者 | 宮沢 賢治 Ⓦ | 
| 文字遣い | 新字旧仮名 | 
| 底本 | 「宮沢賢治全集8」 ちくま文庫、筑摩書房 1986(昭和61)年1月28日 | 
| 初出 | 「イーハトヴ童話 注文の多い料理店」盛岡市杜陵出版部・東京光原社、1924(大正13)年12月1日 | 
| 入力者 | 土屋隆 | 
| 校正者 | noriko saito | 
| 公開 / 更新 | 2005-03-29 / 2014-09-18 | 
| 長さの目安 | 約 2 ページ(500字/頁で計算) | 
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 わたしたちは、氷砂糖をほしいくらゐもたないでも、きれいにすきとほつた風をたべ、桃いろのうつくしい朝の日光をのむことができます。
 またわたくしは、はたけや森の中で、ひどいぼろぼろのきものが、いちばんすばらしいびろうどや羅紗や、宝石いりのきものに、かはつてゐるのをたびたび見ました。
 わたくしは、さういふきれいなたべものやきものをすきです。
 これらのわたくしのおはなしは、みんな林や野はらや鉄道線路やらで、虹や月あかりからもらつてきたのです。
 ほんたうに、かしはばやしの青い夕方を、ひとりで通りかかつたり、十一月の山の風のなかに、ふるへながら立つたりしますと、もうどうしてもこんな気がしてしかたないのです。ほんたうにもう、どうしてもこんなことがあるやうでしかたないといふことを、わたくしはそのとほり書いたまでです。
 ですから、これらのなかには、あなたのためになるところもあるでせうし、ただそれつきりのところもあるでせうが、わたくしには、そのみわけがよくつきません。なんのことだか、わけのわからないところもあるでせうが、そんなところは、わたくしにもまた、わけがわからないのです。
 けれども、わたくしは、これらのちいさなものがたりの幾きれかが、おしまひ、あなたのすきとほつたほんたうのたべものになることを、どんなにねがふかわかりません。
  大正十二年十二月二十日
宮沢賢治