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月夜のでんしんばしら
つきよのでんしんばしら |
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作品ID | 43756 |
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著者 | 宮沢 賢治 Ⓦ |
文字遣い | 新字新仮名 |
底本 |
「注文の多い料理店」 新潮文庫、新潮社 1990(平成2)年5月25日 |
初出 | 「イーハトヴ童話 注文の多い料理店」盛岡市杜陵出版部・東京光原社、1924(大正13)年12月1日 |
入力者 | 土屋隆 |
校正者 | noriko saito |
公開 / 更新 | 2005-02-27 / 2014-09-18 |
長さの目安 | 約 9 ページ(500字/頁で計算) |
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ある晩、恭一はぞうりをはいて、すたすた鉄道線路の横の平らなところをあるいて居りました。
たしかにこれは罰金です。おまけにもし汽車がきて、窓から長い棒などが出ていたら、一ぺんになぐり殺されてしまったでしょう。
ところがその晩は、線路見まわりの工夫もこず、窓から棒の出た汽車にもあいませんでした。そのかわり、どうもじつに変てこなものを見たのです。
九日の月がそらにかかっていました。そしてうろこ雲が空いっぱいでした。うろこぐもはみんな、もう月のひかりがはらわたの底までもしみとおってよろよろするというふうでした。その雲のすきまからときどき冷たい星がぴっかりぴっかり顔をだしました。
恭一はすたすたあるいて、もう向うに停車場のあかりがきれいに見えるとこまできました。ぽつんとしたまっ赤なあかりや、硫黄のほのおのようにぼうとした紫いろのあかりやらで、眼をほそくしてみると、まるで大きなお城があるようにおもわれるのでした。
とつぜん、右手のシグナルばしらが、がたんとからだをゆすぶって、上の白い横木を斜めに下の方へぶらさげました。これはべつだん不思議でもなんでもありません。
つまりシグナルがさがったというだけのことです。一晩に十四回もあることなのです。
ところがそのつぎが大へんです。
さっきから線路の左がわで、ぐゎあん、ぐゎあんとうなっていたでんしんばしらの列が大威張りで一ぺんに北のほうへ歩きだしました。みんな六つの瀬戸もののエボレットを飾り、てっぺんにはりがねの槍をつけた亜鉛のしゃっぽをかぶって、片脚でひょいひょいやって行くのです。そしていかにも恭一をばかにしたように、じろじろ横めでみて通りすぎます。
うなりもだんだん高くなって、いまはいかにも昔ふうの立派な軍歌に変ってしまいました。
「ドッテテドッテテ、ドッテテド、
でんしんばしらのぐんたいは
はやさせかいにたぐいなし
ドッテテドッテテ、ドッテテド
でんしんばしらのぐんたいは
きりつせかいにならびなし。」
一本のでんしんばしらが、ことに肩をそびやかして、まるでうで木もがりがり鳴るくらいにして通りました。
みると向うの方を、六本うで木の二十二の瀬戸もののエボレットをつけたでんしんばしらの列が、やはりいっしょに軍歌をうたって進んで行きます。
「ドッテテドッテテ、ドッテテド
二本うで木の工兵隊
六本うで木の竜騎兵
ドッテテドッテテ、ドッテテド
いちれつ一万五千人
はりがねかたくむすびたり」
どういうわけか、二本のはしらがうで木を組んで、びっこを引いていっしょにやってきました。そしていかにもつかれたようにふらふら頭をふって、それから口をまげてふうと息を吐き、よろよろ倒れそうになりました。
するとすぐうしろから来た元気のいいはしらがどなりました。
「おい、はやくあるけ。はりがねがたるむじゃな…