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河馬
かば |
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作品ID | 43813 |
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著者 | 中島 敦 Ⓦ |
文字遣い | 旧字旧仮名 |
底本 |
「中島敦全集2」 筑摩書房 2001(平成13)年12月20日 |
入力者 | 桑田康正 |
校正者 | 小林繁雄 |
公開 / 更新 | 2005-02-24 / 2014-09-18 |
長さの目安 | 約 8 ページ(500字/頁で計算) |
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河馬の歌
うす紅くおほに開ける河馬の口にキャベツ落ち込み行方知らずも
ぽつかりと水に浮きゐる河馬の顏郷愁も知らぬげに見ゆ
この河馬にも機嫌・不機嫌ありといへばをかしけれどもなにか笑へず
赤黒きタンクの如く並びゐる河馬の牝牡われは知らずも
水の上に耳と目とのみ覗きゐていぢらしと見つその小さきを
× ×
わが前に巨き河馬の尻むくつけく泰然として動かざりけり
無禮げにも我が眼の前にひろごれる河馬の臀のあなむくむくし
臀のたゞ中にして三角の尻尾かはゆし油揚のごと
これやこのナイルの河のならはしか我に尻向け河馬は糞する
事終り小さき尻尾がパシヤ/\と尻を叩きぬ動きこまかに
丘のごと盛上る尻をかつ/″\も支へて立てる足の短かさ
三角の尻尾の先端ゆ濁る水のまだ滴りて河馬は動かず
狸
春晝の靜けきまゝに暫くは狸の面の澁きを嘉す
藁の上に驚き顏の狸はもショペンハウエルに似たりけらずや
瞞すなど誰がいひけむ瞞されて身を嘆きなむ狸の面ぞ
黒豹
ぬばたまの黒豹の毛もつや/\と春陽しみみに照りてゐにけり
思ひかね徘徊るらむぬば玉の黒豹いまだ独り身ならし
マント狒
マント狒は身長三尺余、毛は長くして白色。純白のマントをまとへ
るが如し。但し面部と臀部のみ鮮かなる紅色(桃色に近し)を呈す。
銀白の毛はゆたかなれどマント狒尻の赤禿包むすべなし
マント狒の尻の赤さに乙女子は見ぬふりをして去ににけるかも
白熊
仰向けに手足ひろげて白熊の浮かぶを見ればのどかなりけり
白熊の白きを見ればアムンゼン往きて還らぬむかし思ほゆ
眠り獅子の歌
何時見ても眠るよりほかにすべもなきライオンの身を憐れみにけり
埒もなき状にあらずや百獸の王の日向に眠れる見れば
うと/\と眠れる獅子の足裏に觸れて見たしとふと思ひけり
海越えてエチオピアより來しといふこのライオンも眠りたりけり
うつゝなき夫の鼻先に尻を向けこれも眠れり牝のライオン
汝が國の皇帝もすでに蒙塵と知らでやもはら獅子眠りゐる
仔獅子
獅子の仔も犬の仔のごと母親にふざけかゝるところがされけり
肉も未だ締らぬ仔獅子首かしげ相手ほしげに我が顏を見る
親獅子は眠りたりけり春の陽に屈託げなる仔獅子の顏や
駱駝
生きものの負はでかなはぬ苦惱の象徴かもよ駱駝の瘤は
やさし目の駱駝は口に泡ためて首差しのべぬ柵の上より
孔雀の歌
よく見れば孔雀の眼切れ上り猛鳥の相あり/\と見ゆ
印度なる葉廣菩提樹の蔭にしてひろげ誇らむこの孔雀の羽尾
いと憎き矜恃なりけり孔雀はも餌を拾ふにも尾をいたはりつ
六宮の粉黛も色を失はむ孔雀一たび羽尾ひろげなば
縞馬
縞馬の縞鮮かにラグビイのユニフォームなど思ほゆるかも
ペリカンの歌
ペリカンは水の浅處に凝然と置物のごと立ちてゐる…