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チロルの古城にて
チロルのこじょうにて
作品ID44522
著者岸田 国士
文字遣い新字旧仮名
底本 「岸田國士全集22」 岩波書店
1990(平成2)年10月8日
初出「時事新報」1935(昭和10)年3月15日
入力者tatsuki
校正者門田裕志
公開 / 更新2009-11-16 / 2014-09-21
長さの目安約 2 ページ(500字/頁で計算)

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本文より




 ベルサイユの講和条約に、国境劃定委員会が出来て、その一分科である墺伊両国間の国境劃定に日本からも委員を出すことゝなつて服部兵次郎少将(当時中佐)が任命され、私は通訳として随行した。少々古い話だが――。
 墺伊の国境にはチロルといふローマ時代の伝統をそのまゝ保存してゐる歴史的の小国がある。こゝは谷あひの、景勝の地を占め、いかにも平和な気の靉靆たる所で、欧洲人の避暑地、避寒地となつてゐる。私が此の国を訪れた時は戦後のためあまり入りこんでゐる人もなく、静かな旅行を続けることが出来た。
 その一寒村、シユワルツエンシユタインに今もローマ時代の古城が残つてゐる。伊太利の某公爵夫妻が、一人の孫娘と淋しい生活を送つてゐたが、私の当時の記録には次のやうにある。
シユワルツエンシユタイン
ローマの古城、今は何とか公爵の隠遁所
金髪の少女が、乳桶を提げて出て来る
もう、鶏頭の花が咲いてゐる
(「言葉、言葉、言葉」中のチロルの旅の一節より)
 朽ちはてた古城の一角で可憐な、しかも見惚れるほど気品のある一少女を発見して、私は忽ち芸術的感興に唆かされ、カメラを向けたのがこれである。意図はいゝのだが、腕がそれに伴はなかつたのが残念至極である。



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