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文語詩稿 五十篇
ぶんごしこう ごじっぺん |
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作品ID | 4461 |
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著者 | 宮沢 賢治 Ⓦ |
文字遣い | 新字旧仮名 |
底本 |
「新修宮沢賢治全集 第六巻」 筑摩書房 1980(昭和55)年2月15日 |
入力者 | junk |
校正者 | 林幸雄 |
公開 / 更新 | 2002-05-29 / 2014-09-17 |
長さの目安 | 約 15 ページ(500字/頁で計算) |
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〔いたつきてゆめみなやみし〕
いたつきてゆめみなやみし、 (冬なりき)誰ともしらず、
そのかみの高麗の軍楽、 うち鼓して過ぎれるありき。
その線の工事了りて、 あるものはみちにさらばひ、
あるものは火をはなつてふ、 かくてまた冬はきたりぬ。
〔水と濃きなだれの風や〕
水と濃きなだれの風や、 むら鳥のあやなすすだき、
アスティルベきらめく露と、 ひるがへる温石の門。
海浸す日より棲みゐて、 たゝかひにやぶれし神の、
二かしら猛きすがたを、 青々と行衛しられず。
〔雪うづまきて日は温き〕
雪うづまきて日は温き、 萱のなかなる荼毘壇に、
県議院殿大居士の、 柩はしづとおろされぬ。
紫綾の大法衣、 逆光線に流れしめ、
六道いまは分るらん、 あるじの徳を讃へけり。
〔温く妊みて黒雲の〕
温く妊みて黒雲の、 野ばらの藪をわたるあり、
あるいはさらにまじらひを、 求むと土を這へるあり。
からす麦かもわが播けば、 ひばりはそらにくるほしく、
ひかりのそこにもそもそと、 上着は肩をやぶるらし。
暁
さきは夜を截るほとゝぎす、 やがてはそらの菫いろ、
小鳥の群をさきだてて、 くわくこう樹々をどよもしぬ。
醒めたるまゝを封介の、 憤りほのかに立ちいでて、
けじろき水のちりあくた、 もだして馬の指竿とりぬ。
上流
秋立つけふをくちなはの、 沼面はるかに泳ぎ居て、
水ぎぼうしはむらさきの、 花穂ひとしくつらねけり。
いくさの噂さしげければ、 蘆刈びともいまさらに、
暗き岩頸 風の雲、 天のけはひをうかゞひぬ。
〔打身の床をいできたり〕
打身の床をいできたり、 箱の火鉢にうちゐれば、
人なき店のひるすぎを、 雪げの川の音すなり。
粉のたばこをひねりつゝ、 見あぐるそらの雨もよひ、
蠣売町のかなたにて、 人らほのかに祝ふらし。
〔氷雨虹すれば〕
氷雨虹すれば、 時計盤たゞに明るく、
病の今朝やまされる、 青き套門を入るなし。
二限わがなさん、 公 五時を補ひてんや、
火をあらぬひのきづくりは、 神祝にどよもすべけれ。
砲兵観測隊
(ばかばかしきよかの邑は、 よべ屯せしクゾなるを)
ましろき指はうちふるひ、 銀のモナドはひしめきぬ。
(いな見よ東かれらこそ、 古き火薬を燃し了へぬ)
うかべる雲をあざけりて、 ひとびと丘を奔せくだりけり。
〔盆地に白く霧よどみ〕
盆地に白く霧よどみ、 めぐれる山のうら青を、
稲田の水は冽くして、 花はいまだにをさまらぬ。
窓五つなる学校に、 さびしく学童らをわがまてば、
藻を装へる馬ひきて、 ひとびと木炭を積み…