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「炬火おくり」について
「たいまつおくり」について
作品ID44640
著者岸田 国士
文字遣い新字旧仮名
底本 「岸田國士全集24」 岩波書店
1991(平成3)年3月8日
初出「『文学座第9回試演』パンフレット」1940(昭和15)年2月22日
入力者tatsuki
校正者門田裕志
公開 / 更新2010-02-14 / 2014-09-21
長さの目安約 2 ページ(500字/頁で計算)

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本文より




 私がフランスの現代戯曲にはじめて接したのは、この「炬火おくり」である。もう二十何年か前のことである。私はこれを今の京大教授D博士の前で、おそるおそる訳した。むろん教へを受けるためであつた。
 その後、巴里でこの戯曲がコメデイ・フランセエズの上演目録に加へられたのを知つて、わざわざ見に行つた。そして、新たな感動を受けた。新たなといふ意味は、当時、巴里の演劇革新派は、エルヴイユウの名を既に見向きもせず、私も亦、時代は変つたと、早くもこの「新古典主義」作家の作品を行李の底にしまひ込んだ頃であつたから。
 しかし、この「炬火おくり」の舞台は、面白かつた。それに、私がフランスで見た芝居のうち、こんなに見物のシユウシユウ泣く芝居を見たことはない。しかし、これが、フランスの最も「健全な見物」なのである。
 エルヴイユウの名声は、もちろん、この「炬火おくり」によつて頓にあがつたわけであるが、初演の時、女王人公サビイヌに扮したレジヤンヌ夫人は、また当代随一の名女優であつた。さて、この戯曲を、今は、わが国の舞台にかける意義について考へてみたいが、これは、文学座の新しい企画スタツフの良心と抱負とを信用して、私はたゞ、訳者として一言紹介の言葉を費すに止めよう。
「炬火おくり」は、演劇史的に云へば、フランス十九世紀末の頽廃的自然主義舞台の氾濫のなかから、ロスタンの「シラノ」と共に、力強い理想主義の大旆をかゝげて堂々と生れでた画期的な作品である。アカデミツクと云へばこれくらゐアカデミツクな作品はないが、そこがまた、時代が時代ならば、新鮮で、厳粛な感銘を与へ得るといふ一つの見本であらう。



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