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文芸の側衛的任務
ぶんげいのそくえいてきにんむ
作品ID44657
著者岸田 国士
文字遣い新字旧仮名
底本 「岸田國士全集25」 岩波書店
1991(平成3)年8月8日
初出「文学界 第七巻第十二号」1940(昭和15)年12月1日
入力者tatsuki
校正者門田裕志
公開 / 更新2010-03-04 / 2014-09-21
長さの目安約 17 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

       一

 私の考へでは、政治には、広い意味の政治と狭い意味の政治とがあると思ひます。広い意味の政治とは、申すまでもなく、わが国では、これは大政であります。天皇親裁万民扶翼の国家活動であり、その目標とするところは、これを国是ととなへて、国民の一人一人が、大御心を体して国家の隆昌に寄与しなければならぬのであります。一方、狭い意味の政治とは、つまり、政府及び議会によつて運用されてゐる組織的な政策遂行の方法を指すのであります。
 そこで、ただ今、内地に於ては政治の新体制が着々具体的な面貌を示して来ますし、なほ満洲に於ても、協和会の運動といふやうな新政治の推進的機関が目覚ましい役割を演じてゐるといふのは、従来の、狭い意味の政治力だけでは、国力の充実発展を促すことは勿論、進んで、目下の非常時局を乗り越え、民族的大飛躍を成功に導くことが困難だといふ一般認識に基くものだと考へられますが、それなら、この狭い意味の政治の欠陥を是正し、広い意味の政治の真の妙諦を発揮するには、国民の一人一人が、どういふ覚悟と努力をしなければならぬかといふ点に、われわれの一番大きな日常の問題が含まれてゐるのであります。

       二

 国家総動員とか、国民精神総動員とか、日本的全体主義とかいろいろな言葉で云はれてゐることが、国民一人一人の頭にぴんと来なければならぬのに、まだまだ、それが理想的な形で表れて来ない。観念としては、もうそんなことは云ふ必要のないほど、国民の心もちは一方に向つてゐるのであります。
 例へば文化統制といふことが、しきりに行はれてゐる。これには先づ新しい政治理念を基礎づける思想をもつてのぞまなければなりません。ところが、思想そのものには、深い浅い、強い弱いがあります。また、道徳的に善悪優劣も論じられるのでありますが、絶対の価値を観念的な言葉に結びつけることは考へものである。云ひかへれば、思想は、思想そのものゝ論理的表現に価値があるのではなく、その思想の生きてゐる姿、即ち、いかなる人物によつて、いかにそれが人間の声として放たれてゐるかといふところに、価値の大部分がかゝつてゐるものであります。
 私は、現在の日本に、かゝる思想の出現を望みますが、それと同時に、かゝる思想を時代的に盛りあげて行く力を、文化的な仕事に従事してゐる知識層の教養と情熱に期待するものであります。
 さて、こゝで、徐々に形づくられて行く国防国家といふ見地から、あらゆる文化部門の動員といふことが考へられる。これはどうしても必要である。戦争と文化と対立するものゝやうに云ふのは、一を知つて十を知らないのであつて、若しさうならば、かういふ時代には、国民の文化活動を悉く封じてしまへばいい。ところが、反対に、国家の一大危機に臨んで、国家自体が、文化の総動員を思ひ立つといふところに、大きな意義を私は見出すの…

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