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生活力の強化
せいかつりょくのきょうか |
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作品ID | 44688 |
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副題 | ――北陸地方文化協議会講演―― ――ほくりくちほうぶんかきょうぎかいこうえん―― |
著者 | 岸田 国士 Ⓦ |
文字遣い | 新字旧仮名 |
底本 |
「岸田國士全集25」 岩波書店 1991(平成3)年8月8日 |
初出 | 「文学界 第九巻第四号」1942(昭和17)年4月1日 |
入力者 | tatsuki |
校正者 | 門田裕志 |
公開 / 更新 | 2010-04-10 / 2014-09-21 |
長さの目安 | 約 11 ページ(500字/頁で計算) |
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大政翼賛運動の発足以来、全国に自発的に起つてきた運動の一つに文化運動がありますが、この運動の中には、翼賛運動の本来の性格に未だ副はぬものも可なりあるやうであります。従つて翼賛会としましては、この自主的に盛上つた力を十分生かし、且つ翼賛運動の一翼としてその効果を十分挙げられるやう、凡ゆる機会を捉へて連絡努力してきました。しかしこの自主的文化運動は、謂はゞ、今日まで文化といふ言葉と非常に親しみのある分野だけに限られ、非常に妙な言ひ方でありますが、更に内容的には、主として芸術部門だけに限られたと言つてもよかつたのであります。
芸術部門が特に文化運動の先頭に立つたといふ現象に対して、私は個人としては一応の理由は分りますが、更に広い観点から見ますと、文化運動即ち文学運動であり芸術運動であるといふ誤つた印象を与へたやうであります。ここに文化運動に対する一種の批判が起り、われわれ翼賛会の当事者としては、文化運動の新性格を明瞭りさせなければならぬことを痛感し、夫々の団体に注意を促すと同時に「地方文化建設の根本理念とその方策」といふ刷物を発表しました。地方文化運動の根本理念はこれに大体尽きてをり、こゝで私が申上げる必要もないと思ひますが、文化運動の展開につれ、現在の時局並に社会状勢に応じ、種々の問題がこれに挺身してゐられる方々の間から提出されたのであります。これについて私はこの機会に、翼賛会として考へてをりますことを、皆様に申上げておきたいと思ひます。
最初に文化とは何かといふことが、考方によつて当然の疑問となつて起るのであります。これは言葉の概念の問題と思ひますので、軽々に定義づけることは、翼賛会の立場から私としては出来ませんが、しかし既に政府では、政治・経済・文化といふやうに「文化」を法的に使つてゐますし、翼賛会文化部といふ一部門も公に作られてゐます。初代総裁近衛公も、政治・文化・経済の新体制といふ言葉を使つてをられました。このやうに文化といふ言葉が使はれながら、何故概念として尚一般に明瞭りした輪郭を持ち得なかつたかについて、私はこの言葉が日本語として未だ非常にナマな言葉であり、新しい言葉であり、更に他の新造語と同様、非常に乱雑に使はれてゐる結果であらうと思ひます。「文化」を翻訳語として考へれば、その語源である外国語に引戻して考へねばなりませんが、今日は既にその必要はないと思ひます。又、乱雑な使用によつて概念が曖昧にされてゐることは、われわれの努力により、これを是正することが出来ると思ひます。
さて、種々の言葉が広義と狭義の意味を持つやうに、文化も亦自然広狭二義に使ひ分けなければなりません。広義においては、少くとも国民の理想を追究する過程において、作り出して行く生活の表現であると言つてよいかと思ひます。従つてこの国民の精神的能力が文化の基礎になり、国家活動の原動力…