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隣組の文化運動
となりぐみのぶんかうんどう
作品ID44703
著者岸田 国士
文字遣い新字旧仮名
底本 「岸田國士全集26」 岩波書店
1991(平成3)年10月8日
初出「朝日新聞」1943(昭和18)年4月13日
入力者tatsuki
校正者門田裕志
公開 / 更新2010-05-15 / 2016-04-14
長さの目安約 3 ページ(500字/頁で計算)

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本文より


 大政翼賛会文化部を中心に「隣組文化運動」に関する懇談会が開かれた。問題は主として町内会の運営に文化方面の考慮がもつと払はれなければならぬこと――隣組の性格によつて、いはゆる文化的な要素を多分にもつてゐるところは、おのづからさういふ運動の機運が起つてゐるけれども、逆に文化的要素の少いところほど、実は、その必要があるにも拘はらず、機運の醸成が困難であつて、これをなんとかしなければならぬといふ点にあつたやうである。
 出席者はそれ/″\町内会長またはその役員、隣組長の肩書をもつた人々であつて、いづれも文化的職能の専門家である。その発言には具体的に経験を織り込んだ傾聴すべき意見も間々あつたが、しかし、私が特にこの懇談会を通じて感じたことは、かういふ人々の専門的な智能が町内会や隣組の運営に直接役立つといふよりも、むしろ、概ね理想主義的傾向をもつこれらの人々の、名利をはなれた情熱と良心、現実的な問題を処理する微妙なコツ――いひかへれば、人間心理の洞察力と生活感情の豊かさが、知らず識らず、事務を事務に終らせないで、一般の自発的協力を導きだす強味になつてゐるのではないかといふことである。
 文化運動の出発点は実にこゝにあるのであつて、仮に国策として要求された、ある種の実践運動がいはゞ「物質的」或は「経済的」な問題に属してゐても、これを次ぎ次ぎに徹底させ、効果をあげて行くためには、どうしても「文化運動」としての一面がこれに加はらなければならぬと私はかねがね信じてゐる。それはつまり簡単にいへば「表現の魅力」といふことである。言葉の綾といふやうなものでは絶対になく、人間の心と心とが触れ合ひ、そこに美しい共感の生じるやうな表現をもつて愬へかけることが絶対に必要である。
 戦時下文化運動の目的は、地域的にはもちろん、生活力の強化になければならぬ。それを離れて単なる教養も娯楽もないのである。そして、生活力の強化は単に一時凄ぎといふやうな消極的な方策によつてかち得られるものではない。是非とも、目標を遠きにおいて隣組なら隣組の家族化、町内会なら町内の郷土化といふ方向に向けられなければならぬと思ふ。そこにはじめて、個人、家族、隣人相互の忍耐と工夫を集めた具体的問題の解決が生れて来るのだと思ふ、建設とはかくの如きものであらう。
 そこで、実際に当つては、まづ同一町内に在住する文化職能人の蹶起をお互に促し、その町内のために何かをしようといふ心構へを作ることから始め、必ずしも町内会の役員にならなくとも、進んで、町内会に適切な示唆を与へ、必要があればその企画に参じ、事業の一部を手伝ひ得るやうな協力体制を整へることが肝腎である。



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