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芥川賞(第二十回)選評
あくたがわしょう(だいにじっかい)せんぴょう
作品ID44719
著者岸田 国士
文字遣い新字旧仮名
底本 「岸田國士全集26」 岩波書店
1991(平成3)年10月8日
初出「文芸春秋 第二十三巻第三号」1945(昭和20)年3月1日
入力者tatsuki
校正者門田裕志
公開 / 更新2010-06-09 / 2016-04-14
長さの目安約 2 ページ(500字/頁で計算)

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本文より


 私の手許に送られて来た作品は、いづれもなかなか佳いものであつた。そのうちでもいろいろな点からみて、いま特に推奨したいと思つたのは「技術史」であつた。「春」もある意味では面白く、「雁立」は十分に傑れたところは認めるが、これを今日取り立てゝ世間に吹聴しようといふ風には考へなかつた。
「技術史」は観念的と云へば観念的であり、啓蒙的すぎる(文学の本道でないといふ意味)と云へばさうも云へるが、しかし、ともかく、時局の表面に浮び出した専門的で同時に常識的な問題を正面から捉へ技巧上の微妙な困難をある程度征服して、立派に一国民としての感懐を作家の情熱と融合させた才能と努力とを、私は高く評価したく思ふ。
 受賞と決定した「雁立」について、その理由を最も適確に語り得るは、遺憾ながら私ではない。しかし、私は選者の一人として、他の多くの選者の意見を必ずしも不当とするものではない。協議の席に列しなかつたから詳しいことはわからぬが、多分、この作品が芸術として最も密度が高く、制作の態度も亦、純粋に作家の魂を感じさせるものだといふ、極めて当然な讃辞を浴びたことゝ思ふ。たしかに、若い俳詩人の将来は私も楽しみだ。ただ「生活」の意味をこの作者はどう解してゐるのか。作品を通じての不安がそこから来るのを私はどうしやうもなかつた。



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