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屋上庭園
おくじょうていえん |
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作品ID | 44777 |
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著者 | 岸田 国士 Ⓦ |
文字遣い | 新字旧仮名 |
底本 |
「岸田國士全集2」 岩波書店 1990(平成2)年2月8日 |
初出 | 「演劇新潮 第一巻第八号」1926(大正15)年11月1日 |
入力者 | tatsuki |
校正者 | Juki |
公開 / 更新 | 2009-12-23 / 2014-09-21 |
長さの目安 | 約 19 ページ(500字/頁で計算) |
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人物
並木
その妻
三輪
その妻
所 或るデパアトメントストアの屋上庭園
時 九月半ばの午後
[#改ページ]
二組の夫婦が一団になつて、雑談を交してゐる。一方は裕福な紳士令夫人タイプ、一方は貧弱なサラリイマン夫婦を代表する男女である。
男同志は極めて親しげな様子を見せてゐるに拘はらず、女同志は、互に打解け難い気持を強ひて笑顔に包んでゐるといふ風が見える。
三輪 それで買物は済んだのかい。
並木 買物……? 買物なんかどうだつていゝんだよ。
三輪 此の店へは、ちよいちよい来るの。
並木 ちよいちよい来る。しかし、滅多に買物はしない。此処は、君、屋上庭園でもなかつたら、僕達の来るところぢやないよ。
三輪 僕達も、あんまり此処へは来ないんだが、そら何時か此処から飛び降りて自殺した奴がゐたね、新聞に出てたらう、あれを思ひ出して、今日は一寸上つてみる気になつたんだ。
並木 あゝ、あれね……。
(一同は、今更の如く、下をのぞいて見る)
三輪の妻 こつからぢやたまりませんわね。
並木の妻 ほんとに……。
並木 万引をして見つかつたからと云ふんだが、これは確に一条の活路だね。
三輪の妻 活路ですつて……。死ぬのが活路なの。
三輪 さうさ。しかし、僕はかういふ処へ始めて上つて見たが、なるほど、これは一寸変つた処だね。
並木 僕は此の頃、街を歩いてゐても、これと云つて眼を楽しませるやうなものにぶつからないが、此処へ上つて見ることだけは、殆ど日課のやうにしてゐる。
三輪 君らしい道楽だね。
並木 それやさうだ。
三輪 いや、さういふ意味ぢやなくさ……。ねえ、奥さん、今日は久し振りで並木君とも会つたんですし、奥さんとは初めてお近附きになつたんだから、一つ、御一緒にゆつくり食事でもしようぢやありませんか。
三輪の妻 賛成ですわ。
三輪 お前が賛成なこたわかつとる。どうです。御差支はありますまい。
並木の妻 (夫の方を見ながら)でも……。
並木 さうさなあ。
三輪 いゝぢやないか、君……。
並木の妻 このなりぢや、あたくし……。
三輪の妻 あら、あたくしを御覧遊ばせ……。
三輪 着物なんかかまふもんですか。ぢや、どこか気の張らない処へ御案内しますよ。
並木 しかし、僕達はなんだよ……。
三輪 まあ、まかしときたまい。(妻に向ひ)ぢや、お前買ひ物があるなら、さつさと済ませて来ないか。おれはここで並木君と大に談じてるから……。
三輪の妻 (夫の耳に口を寄せて何か云ふ)
三輪 さうさ、あたり前さ。
並木 (妻に)お前も何か見るつて云つてたぢやないか。見て来いよ。
並木の妻 (夫の耳もとで何か囁く)
並木 かまふもんか、そんなこと……。
女どもは互に顔を見合ひ、笑ひながら退場。
三輪 なかなか可愛らし…