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ヂアロオグ・プランタニエ(対話)
ヂアロオグ・プランタニエ(たいわ) |
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作品ID | 44787 |
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著者 | 岸田 国士 Ⓦ |
文字遣い | 新字旧仮名 |
底本 |
「岸田國士全集 3」 岩波書店 1990(平成2)年5月8日 |
初出 | 「若草 第三巻第四号」1927(昭和2)年4月1日 |
入力者 | tatsuki |
校正者 | noriko saito |
公開 / 更新 | 2011-05-06 / 2014-09-16 |
長さの目安 | 約 8 ページ(500字/頁で計算) |
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由美子 このごろ、町田さん、あなたのお宅へ、たび/\いらつしやるんですつて?
奈緒子 えゝ、あなたのおうちへいらつしやるやうにね。
由美子 あたしのうち……。でも、あの方、兄さまのお友達なんですもの。
奈緒子 兄さまは、今、おうちにゐらつしやらないぢやないの。
由美子 それや、母さまとだつて、お話はあるし……。
奈緒子 だから、それでいゝぢやありませんか。あたしね、あなたに御相談があるの。
由美子 あの方のことで?
奈緒子 それより、あたしたちのことで……。
由美子 ……。
奈緒子 よくつて? あの方ね、あたしたち二人のうち、どつちかを、思つてるのよ。それ、わかるでせう。
由美子 ……。
奈緒子 そのうちに、きつと、どつちかのうちへ来なくなるわ。それはしかたがないとして、あなた、一体、あの方、どうお思ひになる?
由美子 どうつて……。そんなこと考へたことないわ。
奈緒子 ぢや、あたしから、云ふわ。あたし、あの方、好きなの。笑つちやいやよ。それで、若し、あの方が、あなたよりあたしの方を好きになつたら、もうそれつきりでせう。
由美子 それつきりだわ。
奈緒子 それつきりだなんて、あなた、それで、どうもない?
由美子 だつて、しかたがないぢやないの。
奈緒子 いゝえ、しかたがあるとか、ないとかぢやないの。あたし、ほんとのことを云へば、あの方が若し、あなたの方に行つてしまつたら、一寸、がつかりだわ。
由美子 いやな方……。
奈緒子 あなたも、ほんとのことを云へば、それを望んでらつしやるんでせう。
由美子 望んでるなんて……そんな……。
奈緒子 いゝえ、いゝのよ、ほんとのことを云つて頂戴、面倒臭いから……。それでね、あなたがさうだつていふことはわかつてるんだから、今のうちに、二人で妥協しとかうと思ふの。さうでせう、お互に、勝つたり負けたりするのは、いやぢやないの。
由美子 あたし、どうでもいゝわ。
奈緒子 どうでもいゝなら、さうしませうよ。向うの勝手に撰り好みをさせるなんて、気が利かないから、こつちで、籤抽きでもなんでもして、きめちまひませうよ。いゝこと、さ、此の花びらをむしつて、あなた、あたし、つていふ風に分けるわよ。一番あとのひとひらが当つた方が、あの方と結婚するの。これが、あなた、これがあたし、これが……
由美子 一寸、待つて頂戴。こつちばかりその気でゐたつて……。
奈緒子 向うなんかどうだつていゝわよ。それでいやなら、こつちも「左様なら」つて云つてやるばかりよ。
由美子 でも、若しかして、あたしぢやいやだつて云つたら……?
奈緒子 あたしでなくつちや……? だから、そん時は、あたしの方でいやだつて云へばいゝぢやないの。
由美子 ほんとにさうするならいゝわ。
奈緒子 あなただつて、さうしなくつちや駄目よ…