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昭和の劇文学の全貌
しょうわのげきぶんがくのぜんぼう |
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作品ID | 44853 |
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著者 | 岸田 国士 Ⓦ |
文字遣い | 新字旧仮名 |
底本 |
「岸田國士全集28」 岩波書店 1992(平成4)年6月17日 |
初出 | 「昭和文学全集第二十四巻(昭和戯曲集) 月報第二十四号」角川書店、1953(昭和28)年11月10日 |
入力者 | 門田裕志 |
校正者 | noriko saito |
公開 / 更新 | 2011-04-02 / 2014-09-16 |
長さの目安 | 約 2 ページ(500字/頁で計算) |
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元来、戯曲は舞台で演ぜられるために書かれたものであるが、活字として読まれることも今日では考へなくてはならない。
戯曲作家は、さういふ理由から、いつでも自分の作品を、この二つの発表形式の上に成り立たせようとする。
西洋でも、劇文学は古いギリシャの時代から存在はしたけれども、劇詩人の作品が活字で読まれるやうになつたのは、ごく近代のことである。日本でも、近松や黙阿弥が読まれるといふのは、まづ、国文学の文献としてであらう。
大正昭和の頃になつて、今度は逆に、上演のあてもなく、雑誌に発表するためにのみ戯曲を書く傾向が生れた。しかも、それにも拘はらず、この時代に、戯曲の本質的な発展、進化が見られたのは面白い。
それは、言ふまでもなく、劇文学の創造が、新しい演劇運動と足並を揃へてゐたからである。
この集に収められてゐる作品は、昭和年代のいくつかの主要な演劇運動の流れのなかで、それぞれ作家としての成長を遂げた優れた才能の所産であり、いづれも、良心的な舞台にかけられ、しかも、画期的な成功をかち得た幸運な作品ばかりである。
同時代に、これらの作家と肩をならべ、記念すべき業績を残した、なほいくたりかの作家がないことはない。
昭和の劇文学の全貌は、少くとももう一、二巻を割かなければ窺ひ知ることは無理のやうである。が、それにも拘はらず、この全集の性格が明らかに、昭和の文壇ジャーナリスムの傾向を代表するものである限り、その間に占める戯曲文学の地位からみて、この巻の編集意図はまさに象徴的である。