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![]() まつのみさおびじんのいきうめ |
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作品ID | 4489 |
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副題 | 02 侠骨今に馨く賊胆猶お腥し 02 きょうこついまにかんばしくぞくたんなおなまぐさし |
著者 | 三遊亭 円朝 Ⓦ |
文字遣い | 新字新仮名 |
底本 |
「圓朝全集 巻の五」 近代文芸資料複刻叢書、世界文庫 1963(昭和38)年8月10日 |
入力者 | 小林繁雄 |
校正者 | 仙酔ゑびす |
公開 / 更新 | 2011-05-24 / 2014-09-16 |
長さの目安 | 約 178 ページ(500字/頁で計算) |
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一
一席申し上げます。お耳慣れました西洋人情話の外題を、松の操美人の生埋とあらためまして…これは池の端の福地先生が口うつしに教えて下すったお話で、仏蘭西の侠客が節婦を助けるという趣向、原書は Buried a life という書名だそうで、酔った時はちと云い悪い外題でございますが、生きながら女を土中に埋め、生埋めに致しましたを土中から掘出しまする仏蘭西の話を、日本に飜して、地名も人名も、日本の事に致しましただけで、前以てお断りを申さんでは解りませんから、申し上げまするが、アレキサンドルを石井山三郎という侠客にして、此の石井山三郎は、相州浦賀郡東浦賀の新井町に[#挿絵]船問屋で名主役を勤めた人で、事実有りました人で、明和の頃名高い人で、此の人の身の上に能く似て居りますから、此の人に擬え、又カウランという美人をお蘭と名づけ、ヴリウという賊がございますが、是は粥河圖書という宝暦八年に改易に成りました金森兵部小輔様の重役で千二百石を取った立派なお方だが、身持が悪くて、悪事を働きました事を聞きましたから、これを圖書の身の上にいたし、又マクスにチャーレという、彼方に悪人がござりますからマクスを眞葛周玄という医者にして、チャーレを千島禮三という金森家の御納戸役にいたし、巴里の都が江戸の世界、カライの港が相州浦賀で、倫敦が上総の天神山、鉄道は朝船夕船に成っておりますだけで、お話はすべて原書の儘にしてお聞きに入れますから、宜しく其方でお聞分けを願います。金森家の瓦解に成りましてから、多く家来も有りましたが皆散り/\ばら/″\になりまして、嫡子出雲守、末の子まで、南部大膳大夫様へお預けに成りました。粥河圖書は年齢二十六七で、色の白い人品の好い仁で、尤も大禄を取った方は自然品格が違います。大分貯えも有りまして、白金台町へ地面を有ちまして、庭なども結構にして、有福に暮して居りました。眞葛周玄と云う医者を連れて、丁度十月十二日池上のお籠りで、唯今以て盛りまするが、昔から実に大した講中がありまして、法華宗は講中の気が揃いまして、首に珠数をかけ団扇太鼓を持って出なければなりません様に成って居ります。粥河は素より遊山半分信心は附たりですから、眞葛の外に長治という下男を連れて、それに芳町の奴の小兼という芸者、この奴というのは男らしいという綽名で、この小兼は厭味の無い誠にさっぱりとした女で、芸が善くって器量も好うございます。それに客愛想も好いから当時の流行妓で家には少しの貯えも有るという位、もう一人はその頃の狂歌師談洲樓焉馬の弟子で馬作という男、併し狂歌は猿丸太夫のお尻という赤ッ下手だが一中節を少し呻るので、それで客の幇間を持って世を渡るという男、唯此の男の顔を見ると何となく面白くなるという可愛らしい男で、皆様が贔屓にして供に連れて歩くという、此の五人連で好天気でぶら/\と出掛けました。
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