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「白い蛇、赤い蛇」
「しろいへび、あかいへび」
作品ID44894
著者岸田 国士
文字遣い新字旧仮名
底本 「岸田國士全集28」 岩波書店
1992(平成4)年6月17日
初出「時事新報」1933(昭和8)年8月2日
入力者門田裕志
校正者noriko saito
公開 / 更新2011-03-27 / 2014-09-16
長さの目安約 2 ページ(500字/頁で計算)

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本文より


 舟橋聖一氏長篇小説「白い蛇、赤い蛇」は新聞の連載小説として書かれたものだが、なるほどこれなら、大概の読者を満足させることに成功したであらう。
 作者は必ずしも通俗味をねらつてはゐないが、さうかと云つて、芸術家気取りの独りよがりを売物にしてもゐない。人情と世相の上に、やゝ早熟とも思はれるほどの眼を向け、これに同君一流の官能描写を織り込んで、心理的ドラマの多彩な絵巻を作り上げてゐることは、たしかに、非凡な腕前である。
 この小説の中に現はれる女人群像は、殊に見事な現代浮世絵である。それぞれの著しい特色の中に、たゞ共通なるものとして感じられるのは、かの「自意識」――何をしでかすかわからない自意識である。新しい女性のみに与へられたこの「新しい魅力」について、作者はまた作者らしい観察と想像を肆にしてゐる。私は、多くの読者が、この一点だけにでも、誘惑を感じない筈はないと思ふ。
 筋の発展にもなかなか鮮かな手際を見せてゐる。映画的コンテイニユイテイイにも殆ど破綻を見せず、新聞小説などにあり勝ちな、空々しい「クウ・テアトル」は無論ないが、場面としての事件的緊張は、程よく全篇を調子づけ、文体の新鮮な古典味と相俟つて、教養ある読者の期待に添ひ得ること、万に疑ひなしである。
「面白い小説はないかなあ」と探してゐる人には「これを読んで見給へ」と勧め得る自信が私にはある。



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