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![]() はんせんのえについて |
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作品ID | 44902 |
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著者 | 岸田 国士 Ⓦ |
文字遣い | 新字旧仮名 |
底本 |
「岸田國士全集28」 岩波書店 1992(平成4)年6月17日 |
初出 | 「小説公園 第一巻第五号」1950(昭和25)年8月1日 |
入力者 | 門田裕志 |
校正者 | noriko saito |
公開 / 更新 | 2011-03-27 / 2014-09-16 |
長さの目安 | 約 1 ページ(500字/頁で計算) |
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もう十年も前のこと、私が友人A君に、ふとした話の序に、佐伯祐三の絵が好きだといふと、その友人は、それからしばらくたつて、これはどうだといつて、小さな風景のスケッチをもつて来てくれた。パリ郊外のムードンあたりと思はれる佐伯にしては珍しく色彩の明るい、包装紙かなにかにサラリと描いた初秋の森である。私は、うれしかつた。
ところが、戦争がはじまつて、A君は、報道班員として南方へ連れて行かれ、私が、心ばかりの送別の宴に彼を招くと、そのとき、――自分はもうどうなるかわからないのだから、この絵もよかつたら、あなたのところへおいていく、と言ひ、ひと目で私の心をとらへた、小品ながら、佐伯祐三独特の深い詩情をたゞよはせた傑作を投げ出した。私はこの絵に描かれた空と海と、黙してたゝずむやうな帆船の前にたつと、知らずしらずこの作家の魂の郷愁にふれる想ひがする。