えあ草紙・青空図書館 - 作品カード
楽天Kobo表紙検索
支那の孝道殊に法律上より観たる支那の孝道
しなのこうどうことにほうりつじょうよりみたるしなのこうどう |
|
作品ID | 44907 |
---|---|
著者 | 桑原 隲蔵 Ⓦ |
文字遣い | 旧字旧仮名 |
底本 |
「桑原隲藏全集 第三卷」 岩波書店 1968(昭和43)年4月30日 |
初出 | 「狩野教授還暦記念支那学論叢」1928(昭和3)年2月 |
入力者 | はまなかひとし |
校正者 | 染川隆俊 |
公開 / 更新 | 2010-09-21 / 2014-09-21 |
長さの目安 | 約 147 ページ(500字/頁で計算) |
広告
広告
一
孝道は支那の國本で、又その國粹である。故に支那を對象とする研究には、先づその孝道を闡明理會せなければならぬ。既に米國の Headland も、孝道が支那人の家族的・社會的・宗教的乃至政治的生活の根據をなせる事實を牢記せねば、支那及び支那人の眞相は、到底理會することが出來ぬと明言して居る(Home Life in China. p. 154)。然るに近時我が國に於ける支那學研究は、哲學・歴史・文學の各方面に亙つて、長足の發展をなせるに拘らず、獨り支那の孝道に關する徹底した研究が、未だ發表されて居らぬのは、大なる遺憾と申さねばならぬ。若し私のこの論文が、その缺陷の萬一を補足し得ば幸甚と思ふ。
今より約百五十年前に、久しく支那に布教して居つた、フランスの宣教師の Cibot 韓國英が、「孝道に關する支那人の教理」と題する一大論文を發表した。彼は上は經傳から、下は俗諺に至るまで、すべて支那の孝道に關する記録を譯出して、當時としては驚くべき程詳細に、支那の孝道を歐洲へ紹介した。その Cibot が支那に於ける孝道の感化の廣大無邊なることに就いて、次の如く述べて居る。
三千五百年前の古代から今日まで、支那人の孝道を尚ぶ心持は、丁度スパルタ人(Lac[#挿絵]d[#挿絵]mone)が自由を愛し、ローマ人が祖國を愛するそれと同一である。……孝道は今日でも猶ほ【古代と同樣に、支那國内の】すべての階級、すべての地位、すべての性(Sexes)、すべての年齡の人々の、最高の道徳であり、又【支那國内の】各方面に關係し、各方面に影響し、又各方面に【最大の】勢力をもつて居る。かくて王座(Tr[#挿絵]ne)も【孝道の】足下に立ち、……法廷【の裁判】も【孝道に】導かれ、學問の殿堂も【孝道に】支配され、……宮廷に於ても家庭に於ても、【孝道が】中心となり、……あらゆる一切のものは、すべて【孝道の前に】屈服する。……孝道は實に支那人の國民的道徳である。一言でも孝道に攻撃【非難】を加へるならば、それは【支那全國民に對して】戰鬪(Combat)の一合圖となるであらう。支那國民は擧つてその復讎の爲に、武器を執つて起ち、女性や子供さへも、この爭の爲に生命を惜まぬであらう(Doctrine des Chinois sur la Pi[#挿絵]t[#挿絵]filiale 【M[#挿絵]moires concernant l'Histoire,les Sciences,etc.des Chinois.Tome IV, 1779】. pp. 1-3)。
Cibot の後百年を經て、今より約五十年前に、フランスの領事で同時に支那學者として聞えた Thiersant は、『百孝圖説』の中から、二十五人の孝子の事蹟を譯出してヨーロッパに紹介した。彼はその序論に、支那の孝道に就いて、左の如く記して居る。
誰…