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芸道地に堕つ
げいどうちにおつ
作品ID44916
著者坂口 安吾
文字遣い新字新仮名
底本 「堕落論」 新潮社
2000(平成12)年6月1日
初出「東京新聞 第七百五十九号」1944(昭和19)年11月1日
入力者うてな
校正者noriko saito
公開 / 更新2006-08-19 / 2014-09-18
長さの目安約 1 ページ(500字/頁で計算)

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本文より




 近頃は劇も映画も一夜づくりの安物ばかりで、さながら文化は夜の街の暗さと共に明治時代へ逆戻りだ。蚊取線香は蚊が落ちぬ。きかない売薬。火のつかぬマッチ。然し、之は商人のやること。芸は違う。芸人にはカタギがあって、権門富貴も屈する能わず、芸道一途の良心に生きるが故に、芸をも自らをも高くした。芸は蚊取線香と違う。
 けれども昨今の日本文化は全く蚊の落ちない蚊取線香だ。どんなヤクザな仕事でも請る。二昔前の書生劇でも大入り満員だというので、劇も映画も明治の壮士芝居である。職人芸人の良心などは糞喰え、影もとどめぬ。文化の破局、地獄である。
 かくては日本は、戦争に勝っても文化的には敗北せざるを得ないだろう。即ち、戦争の終ると共に欧米文化は日本に汎濫し日本文化は忽ち場末へ追いやられる。芸人にカタギがなくては浮かぶ瀬がない。芸の魂は代用品では間に合わぬ。



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