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プリンス・アド
プリンス・アド
作品ID44944
著者村山 籌子
文字遣い新字旧仮名
底本 「日本児童文学大系 第二六巻」 ほるぷ出版
1978(昭和53)年11月30日
初出「子供之友」婦人之友社、1924(大正13)年6月
入力者菅野朋子
校正者noriko saito
公開 / 更新2011-03-23 / 2014-09-16
長さの目安約 4 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

 美しいプリンスは、お名をアドとおつしやいます。いつも真黒なビロードの服に、まつかなマントを背にかけて、三人のおもちやの兵隊を、おつれになつて、森のなかをあるいていらつしやいます。三人の兵隊は、アドの家来で、レクとメツツと、テルといひます。
 ある日、アドが、その三人の兵隊をつれないで、たつたひとりで森のなかへはいつてゆきますと、一人の若い男にあひました。その男は、アドを見ると、いきなりアドの前に倒れてしまひました。アドは、おもひやりの深いプリンスだつたので、その男を抱きあげて、
「どうしたのだ。どうしたのだ。」と言ひながら、感じ入つてボロ/\涙をながしました。それをみると、その男は、大声でわあ/\ないてしまひました。
「どうしたのですか。ね。どうぞ言つて下さい。」とアドは、頭をさげて、たのむやうに申しました。その男は、急に元気になつて、パつととびおきて、ひざの泥をはらひながら、
「あなたは、あの有名な、アド様ですか。」と申しましたので、アドは目を輝して、にこにこして、その男をだきしめました。その男は、
「私には、一人の妹がございます。それがこの森の奥の、お城に住んでゐる大男に、とられてしまつたのです。どうぞ助けて下さい。」と申しました。
「ふうん。いや、よろしい。助けてあげよう。安心おし。」
とアドはきつぱり言ひました。
 自分のお城に帰つたアドは、三人の兵隊をお呼びになつて、今日の出来事をはなしますと、
「え。え。私がをりますれば、それ位のことは。」と、三人はめいめいにゐばりながら、そこら中をとんであるきました。その晩、ねどこの中で、アドが、
「おもしろいことになつたぞ。」と言ひますと、レクと、メツツとテルは、一度に、
「そんな大男なぞは、足の先でけとばせらあ。」と申しました。
 夢中になつた四人は、すつかり寝入つてをりますのに、こんなにねごとで話をした程でございました。
 あくる朝早く四人は、お城をでて、いよいよその大男のお城に参りました。四人は少し足がふるへましたけれど、かまはずどんどんそのお城にはいつて行きますと、大男は丁度自分の部屋の、正面の椅子にこしをかけて、こちらを見てをりました。背は雲つく程高く目は皿のやうで、手はごばうを五本よせたやうでした。四人は、刀も、鉄砲ももつてくるのを忘れてしまつたので、がた/\ふるへました。
 けれども勇気のあるアドは、大男に、
「お前は、若い男の妹をぬすんだらう。それを僕たちはとりかへしに来たのだ。」と申しますと、大男はおこつて、どなりました。
「何だ。おもちやのくせに。火にくべてしまふぞ。なまいきな奴だ。」と言つて指の先でアドをつりあげました。アドは握られたまゝ、
「ねえ。大男。そんなに僕をいぢめないで、あの妹を返しておくれよ。」
と申しますと、下でそれをきいてゐたレクは、丸い目をぎよろつかせて、申しました。…

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