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はちとくま
はちとくま |
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作品ID | 44947 |
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著者 | 村山 籌子 Ⓦ |
文字遣い | 新字旧仮名 |
底本 |
「日本児童文学大系26」 ほるぷ出版 1978(昭和53)年 |
初出 | 「子供之友」婦人之友社、1925(大正14)年6月 |
入力者 | 菅野朋子 |
校正者 | noriko saito |
公開 / 更新 | 2011-03-28 / 2014-09-16 |
長さの目安 | 約 2 ページ(500字/頁で計算) |
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一匹の子熊が、森のなかから、のこ/\と日あたりのいい、のはらに出てきて、倒れてゐた丸太の上にこしをおろして、うれしさうにフフンとわらひました。
子熊はふところから、はちみつを入れたつぼをとりだして、ゆびでしやくつて、ちび/\なめはじめました。
「いつたべても、うまいのははちみつだ。はちみつにかぎる。あまくつて、おいしくつて。」とひとりごとを言ひながら、せつせとなめてをりました。
すると、そこへ、一匹のみつばちが、ブーンととんで来て、子熊の帽子のまはりを、ぐるぐるまひながら、言ひました。
「子熊さん。僕は、ほんとに、はらが立つてたまらないよ。」
「何がはらがたつんだ。僕はなんにも、君にわるいことなんかしたおぼえはないよ。」と、子熊は、やつぱり、みつをたべながらこたへました。すると、みつばちは、
「だつて、君、かんがへてみたまへ。君は、僕たちが、長い間、くらうをしてためたみつを、それこそ、べろ/\と、見てゐるうちになめちまうんだもの。これくらゐ、はらのたつことはないよ。」と、羽をふるはせて言ひました。
子熊は、かう言はれて見ると、何だかはちに、気の毒なやうな気持になりました。そこで、
「はちくん。そんなにおこらないでくれ。そのかはりに、僕は、君をいゝところへつれてつてあげよう。」といつて、子熊ははちを、花の一杯さいてゐる、誰も知らない、谷間へつれて行つてやりました。