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髪床やの大根さん
かみとこやのだいこんさ
作品ID44958
著者村山 籌子
文字遣い新字旧仮名
底本 「日本児童文学大系 第二六巻」 ほるぷ出版
1978(昭和53)年11月30日
初出「子供之友」婦人之友社、1928(昭和3)年3月
入力者菅野朋子
校正者noriko saito
公開 / 更新2011-05-02 / 2014-09-16
長さの目安約 2 ページ(500字/頁で計算)

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本文より


 今年十になつた、大根さんのお家はお父さんが髪床やさんでした。二人とも、おやさいの中で一番頭の毛が青く立派に生へてゐるので、誰れでも、大根さんの家が髪床やさんをしてゐるのを笑ふものはありませんでした。
 大根さんは毎日お父さんが方々の家へ髪を刈りに出張するので、お父さんの後から髪を刈るはさみやバリカンを入れた箱を持つてついて行きました。
 ある日、二人は大根さんのお友達の玉ねぎさんのお家へ行きました。そしてお父さんが、玉ねぎさんのお父さんの頭を刈つてゐるあひだに、大根さんは玉ねぎさんの頭をはさみで、ぎざ/\にちよんぎつてしまひました。
 玉ねぎさんと大根さんはすつかり困つてしまつて、にかわを買つて来て一本一本つぎたしました。けれども、一本の所へ二本くつつけたりしたので、とても変てこになりました。
 玉ねぎさんのお父さんはこれを見てすつかりおこつてしまつて、大根さんとお父さんを門の外へつき出して、
「もう、二度と お前たちには用事はないよ。」
と申しました。ほんとに困つたことになりました。
 これを聞きつけた町の人たちは誰れも彼れも、大根さんのお父さんに髪を切つてもらふことを止めました。そして玉ねぎさんが町を歩いてゐるのを見て、
「桑原、桑原。あんな頭にされるといやだからねえ。」
と申しました。
 大根さんもお父さんも大変悲しみましたが仕方がありません。それから一と月位たつてから、
「何か別の商売を初めて見やうかしらん。」
と考へましたが、何といつても髪床やさんより外には、大根に向いた商売はないのでした。二人は困りました。ところが、この頃になつて、
「大根さん、私の頭を刈つて下さい。」と方々からたのんで来るやうになりました。お父さんの大根さんは大よろこびでもあり、不思議でもありましたが、どうしても、そのわけがわかりませんでした。けれども、子供の大根はすぐそのわけがわかりました。そしてお父さんに、
「お父さん、玉ねぎさんの髪の毛が、もとのやうに、伸びたからだよ。」と申しました。
 そしてそれは、ほんとのことでした。



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