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ねずみさんの失敗
ねずみさんのしっぱい
作品ID44972
著者村山 籌子
文字遣い新字旧仮名
底本 「日本児童文学大系 第二六巻」 ほるぷ出版
1978(昭和53)年11月30日
初出「子供之友」婦人之友社、1931(昭和6)年6月
入力者菅野朋子
校正者noriko saito
公開 / 更新2011-06-23 / 2014-09-16
長さの目安約 3 ページ(500字/頁で計算)

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本文より


 ねずみさんはとてもなまけ者です。そのねずみさんが、ねずみさんのおかみさんの部屋にとんで帰つて言ひますのに、
「おかみさんや、早く着物を着換えなさい。一番いい着物に。帽子も一等いいのに。それから、わしにも一番いい服を出しておくれ。」
 おかみさんは、ねずみさんの言ふことがよく分らないので、返事をしませんでした。ねずみさんは、大きな声でどなりました。
「下の家のチユウチユウさんのところへ遊びに行くんだから。」おかみさんはしぶしぶ、「チユウチユウさんのところへ? 何しに行くんです。」と聞きました。ねずみさんは、
「それがさ、まあお聞き。今ね、わしがチユウチユウさんのとこの前を通つたのさ。そしたらお前、あぶらあげ、ね。あぶらあげを焼いてる匂ひがプンプンしてんだよ。早く、遊びに行けば、きつと、分け前がもらへるよ。さ、早く早く。」と呼吸を切らして言ひました。
「ほんと? ぢや早くしないとお前さん、駄目になつてしまひますよ。早く、早くつたら。」とおかみさんも仲々慾張りでしたから、二人で大あわてにあわてて仕度をして出掛けました。
 二人は目の色を変へてお庭を走りぬけて、大きな門のそばを通つて、やつとこさ、大きなお部屋の前まで来ました。「おや、路をまちがつたやうだよ。困つたなあ。」とねずみさんは、こわごわなかを見ましたら、そこには、山のやうに大きなおもちやの熊さんがすわつてゐました。二人はビツクリしてしまひましたが、こんな事ぐらゐで引つかへすなんて事は出来ません。二人とも、とてもおとなしく、そして、頭を床にすりつける位低くおぢぎをして、「熊さん、私たち、路に迷つて、大変困つてをりますのですが、チユウチユウさんとこはどつちでございませうか。早く参りませんとあぶらあげの分け前を戴かれなくなりますから、早く教へて下さいませんか。」と言ひました。
 熊さんはとてもをかしかつたので、フキ出しながら、
「お前さんみたいな夫婦はきつと道をまちがへるね。この机の上の穴を通つて、地下室へおいで。そこがチユウチユウさんのとこだ。」
 二人はその路を出来る丈け[#「丈け」はママ]はやくかけ出して、やつとチユウチユウさんの家へ参りました。
「ごめん下さい。」とねずみさんが言ひますと、チユウチユウさんとそのおかみさんは、あぶらあげをたべたばかりの口をふきながら、出て来ましたので、ねずみさんとおかみさんはがつかりして、腰がぬけさうになりました。
「チユウチユウさんとこへなぞ、一生もう行くもんか。」と二人はプンプンおこつて帰つて来ました。気の毒なお話ですね。



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