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お鼻をかじられたお猫さん
おはなをかじられたおねこさん |
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作品ID | 44975 |
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著者 | 村山 籌子 Ⓦ |
文字遣い | 新字旧仮名 |
底本 |
「日本児童文学大系 第二六巻」 ほるぷ出版 1978(昭和53)年11月30日 |
初出 | 「子供之友」婦人之友社、1931(昭和6)年11月 |
入力者 | 菅野朋子 |
校正者 | noriko saito |
公開 / 更新 | 2011-11-13 / 2014-09-16 |
長さの目安 | 約 3 ページ(500字/頁で計算) |
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あるところに、お猫さんがありました。誰もつきあつてくれません。このお猫さんは、大へんきむづかしやで、年中おこつてばかりゐるからです。
或日、椅子に腰かけて新聞をよんでゐましたが、眠くなつて寝こんでしまひました。
そこへ、この間生れたばかりで、もうチヨコ/\走りまはつてゐるネズミさんがやつてきました。お猫さんがきむづかしやだなんてことは、まだ知りません。お猫さんの椅子にはひあがつて、お猫さんのお鼻を一かじりかじりました。そこには、あまいおいしいゼリーのかけらがくつついてゐたからです。
× ×
その時、お猫さんは、いやといふ程、お鼻をかじられた夢を見ました。よく見ると、近所の動物園の檻の中にゐる虎さんが、爪をとんがらかして、お鼻の先にくひついてゐました。お猫さんは、びつくりして目がさめました。お猫さんは腰をぬかして「わあ、虎にかまれた。虎だ、虎だ、助けてくれ――」と、大きな声を出しました。
近所のお猫さんや、うさぎさん、犬さん、あひるさん、羊さん、牛さんたちは、腹が立つてはゐましたが、虎さんにかみころされては、あんまりかあいさうだと思つて、ピストルや、てつぱうをさげて、とんできました。消防自動車は火事かと思つて、ピユーピユー四方から走つてきました。
ところが、虎さんなどはどこにもをりません。ベツトの下や、敷物までハガシて見ましたが、足跡もありません。みんなとてもおこりました。そしてお猫さんの家中を泥足でふんづけて帰つて行きました。
× ×
ところが、お猫さんの家のお隣りはネズミさんのお家です。ネズミさんの赤ちやんは、お猫さんのお家の大さわぎが、自分のせいだといふことは知りません。夕方になつて、ノコ/\お家へ帰つて来て、お母さんにいひました。
「僕、さつき、お猫さんのおぢさんの鼻の先をかじつたの。だつて、先ツチヨに、ゼリーがついてたんだもの。あんなゼリー、うちでもこさへてね」
ネズミさんのお母さんはびつくりいたしました。けれども、おしまひにはおかしくなつて、家にぢつとしてゐられません。早速近所の家へこのことをおしやべりしてあるきました。
街中は大さわぎです。皆、窓から首を出して「アハハハハハ」と、大笑ひいたしました。
お猫さんは、その時牛乳を飲んでゐましたが、恥かしくなつて、のどにつかえて、飲むことができません。新聞社の写真がかりの犬さんが、窓からソツとこのシカメツ面のお猫さんを写真にとつて、あくる日の新聞にのせました。お猫さんはこの写真を見て、自分ながらそのシカメツ面がおかしくなつたので、大笑ひいたしました。あんまり笑つたので、その時からお猫さんはおこるといふことをわすれてしまつて、とてもニコ/\したいいお猫さんになつて、お仕舞には街のニコ/\クラブの会長さんになりましたさうです…