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泣いてゐるお猫さん
ないているおねこさん
作品ID44982
著者村山 籌子
文字遣い新字旧仮名
底本 「日本児童文学大系 第二六巻」 ほるぷ出版
1978(昭和53)年11月30日
初出「子供之友」婦人之友社、1933(昭和8)年9月
入力者菅野朋子
校正者noriko saito
公開 / 更新2011-06-27 / 2014-09-16
長さの目安約 3 ページ(500字/頁で計算)

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本文より



 ある所にちよつと、慾ばりなお猫さんがありました。ある朝、新聞を見ますと、写真屋さんの広告が出てゐました。
「写真屋さんをはじめます。今日写しにいらしつた方の中で、一番よくうつつた方のは新聞にのせて、ごほうびに一円五十銭差し上げます。」
 お猫さんは鏡を見ました。そして身体中の毛をこすつてピカピカに光らしました。そして、お隣のあひるさんの所へ行きました。


「あひるさん、今日は。すみませんけど、リボンを貸して下さいな。」と言ひました。あひるさんは、リボンを貸してくれて、
「お猫さん、どうか、なくなさないでね。」と言ひました。お猫さんは、それを頭のてつぺんにむすんで、写真屋さんへでかけました。歩いてゐるうちに、
「早く行かないと、お客さんが一杯つめかけて来て、うつしてもらへないかも分らない。」と思ふと、胸がドキドキして歩いてゐられません。といつて、猫の町には円タクはなし、仕方がないので、大いそぎでかけ出しました。


 写真屋さんへ来ました。お猫さんはもう一度鏡の前で、身体をコスリ直しました。そして、頭を見ましたら、リボンがありません。あんまり走つたので、落してしまつたのです。
「さあ、うつりますよ。笑つて下さい。」と、写真屋の犬さんが言ひましたけれども、リボンのことを考へると、笑ひどころではありません。今にも泣きさうな顔をしました。


 写真をうつしてしまふと、お猫さんはトボトボとお家へ帰つて来て、鏡を見ました。涙がホツペタを流れて、顔中の毛がグシヤグシヤになつてゐました。
「これぢやあ、一等どころかビリツコだ。」と思ふと、又もや涙が流れて出ました。
「あひるさんのリボンを買つてかへすにもお金はなし……」と思ふと、又もや涙が流れ出ました。ところが、あくる日、おそる/\新聞を見ますと、
「泣いてゐるお猫さん。一等」と大きな活字で書いてありました。お猫さんはとびあがる程よろこびました。そして写真屋さんへ行つて一円五十銭もらひました。


 お猫さんはそれを大切にお財布に入れて、あひるさんの所へ行きました。行きながら、「リボン代をこのお金で払ふことにしやう。まあ、せいぜい五十銭位なものだから、一円はのこる。」と思ひました。


 お猫さんはあひるさんに言ひました。「どうか、リボンのお値段を言つて下さい。遠慮なくほんとの所を。」と言ひました。あひるさんは言ひました。ほんとの所を。「ほんとの所はあれは一円五十銭なんですの。」
 お猫さんはぼんやりしてしまひました。けれども仕方ありません。一円五十銭あひるさんに払ひました。お猫さんのお財布の中には幾銭のこつてゐますか? 皆さん、計算してください。



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