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お猫さん
おねこさん
作品ID44984
著者古川 アヤ / 村山 籌子
文字遣い新字旧仮名
底本 「日本児童文学大系 第二六巻」 ほるぷ出版
1978(昭和53)年11月30日
初出「子供之友」婦人之友社、1934(昭和9)年1月~4月、6月~12月
入力者菅野朋子
校正者noriko saito
公開 / 更新2011-11-13 / 2014-09-16
長さの目安約 24 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

毛を染めかへたお猫さん

 お正月が近づいて来たので、お猫さんのお父さんとお母さんはお猫さんをお風呂に入れて、毛皮の手入れをしなくちやならないと考へてをりました。なぜといつて、お猫さんは白猫さんでしたから。
「お父さん、ここに石けんの広告が出て居ますよ。これを使つたらどうかしら。何しろ、お猫さんは大変なおいたで、ふだんから、お風呂がきらひなので、まるで、どぶねづみみたいによごれてゐますからね。」
「どれ、どれ。成程、これなら大丈夫。これにしましよう。」とお父さんは賛成して、お金を下さいました。
 その石けんはラツクスといつて、人間でもめつたには使はない上等の石けんですから、お猫さんの家なんかで使ふのは勿体ないぐらゐです。けれども、お猫さんのためなら、お猫さんのお父さんやお母さんはいくら高くてもがまんをいたしました。
 石けんを買つて来たお母さんは、お猫さんをお風呂に入れました。長いあひだはいらないものですから、身体中にしみて、お猫さんはがまんが出来なくて泣きました。けれども、お風呂から上つて、毛がかわくと、それはそれは目もまぶしいくらゐに美しく真白になりました。
 お父さんもお母さんも自分の子ながら、あんまり美しいので、思はず、嬉し涙を出したくらゐでした。
 ところが、お猫さんのおとなりにお黒さんといふ真黒なお猫さんが住んでゐました。お猫さんのお友達です。そのお黒さんが、お風呂から上つたばかりのお猫さんの所へあそびに来ました。お黒さんも、やはりお風呂から上りたてで、それは美しくピカピカと毛を光らせてをりました。
 二人は、いや、二匹はお家をとび出して、町の方へ遊びに出かけました。
「あなたは真白でとてもいいわね。ステキよ。」とお黒さんが言ひました。「あなた真黒で、とてもハイカラよ。」とお猫さんが言ひました。二匹は生れついた色がきらひで、他人のものがよく見えて仕方がありません。人間の子供みたいです。
 ところが、町の化粧品やさんで、大売出しをやつてゐました。楽隊がプカプカドンドンと鳴つてゐて、それは面白さうでした。二匹はそこへかけつけて行きました。
 化粧品やさんでは、「毛皮の染めかへ」薬を売出してゐました。
「さあ、どなたでも、ためしにお染めかへいたします。売出し中はお金はいたゞきません。さあ、どなたでも。どなたでも。」
 お猫さんとお黒さんは胸がドキドキして来ました。「どう? そめてもらはない? たゞだつて」
 二匹は顔と顔とを見合はせてモジモジしてゐましたら、化粧品やのおぢさんはすぐに「さあ、染めてあげませう。」と言つて、お猫さんを真黒に、お黒さんを真白に染めかへてくれました。
 二人はよろこびました。とてもうれしくて、自慢で、早くお父さんやお母さんに見せようと思つてとんでかへりました。
 お猫さんのお父さんお母さんは、お黒さんに言ひました。「お猫さんや…

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