えあ草紙・青空図書館 - 作品カード
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二階の窓までのびたチユーリツプ
にかいのまどまでのびたチューリップ |
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作品ID | 44987 |
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著者 | 村山 籌子 Ⓦ |
文字遣い | 新字旧仮名 |
底本 |
「日本児童文学大系 第二六巻」 ほるぷ出版 1978(昭和53)年11月30日 |
初出 | 「コドモノクニ」東京社、1937(昭和12)年4月 |
入力者 | 菅野朋子 |
校正者 | noriko saito |
公開 / 更新 | 2011-08-29 / 2014-09-16 |
長さの目安 | 約 3 ページ(500字/頁で計算) |
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あるお家に かあいいお猫さんがかはれてゐました。えりまきのかはりにもも色の首輪をつけて、たいへんハイカラにみじまひしてゐました。
或日、お庭をさんぽしてゐると、とつぜん、目のまへの土がムクムクとふくれて、その中から小さい草の芽が 頭をだしました。お猫さんはそんなものを見たのは はじめてでしたから、腰をぬかさんばかりにおどろきましたが、心をしづめて、「こんにちは、もぐらもちさん」といひました。草の芽は大さうおこつて「私、もぐらもちぢやありませんわ。チユーリツプといふ花の芽よ。」
猫は鼻のさきで せせらわらつて、
「土の中から、ムクムク出て来るのは もぐらもちにきまつてゐるさ。」といひました。
「いいえ。私、チユーリツプよ。私の咲かせる花は あなたの首輪とおなじもゝ色だけれど、うつくしいことにかけては もつともつとうつくしいの。」まけぎらひなチユーリツプは、ツンとすましていひました。
お猫さんは、おほわらひしました。
「もゝ色の首輪をしたもぐらもちなんて、ぼくうまれて いちどもみたことないや。」
チユーリツプの芽は、腹がたつてもうがまんができなくなりました。
「ぢや、みていらつしやい、私がもぐらもちぢやなくて、チユーリツプだつてことを、たつたいまここでみせてあげるから。」さういつて、全身に力をいれました。ところが、あんまり力を入れすぎたので、みるみるうちにたいへんな、いきほひでのびました。またたくうちに屋根をこしてお二階のまどのところまで とどきさうになりました。チユーリツプはびつくりしてやつとのことで、ふみとまりました。そして、そこで それはそれは、うつくしいもゝ色の花をさかせました。
ちようどお二階のまどのうちで、あたゝかい日をあびて本をよんでゐた、本子奥さんは 去年の秋まいた、せいぜい一尺も大きくならないはずのチユーリツプが、屋根をこすほど長くのびてゐる ふしぎな光景をみて、あつけにとられました。いくらかんがへても、そのわけがわかりませんでした。
本子奥さんは、家ぢうをかけまわつてさがしましたが、二階のまどのとゞくやうな長つたらしいチユーリツプをいけられるやうな花瓶は、みつかりません。皆さんはあるとおもひますか? しかたなくはしごをかけて本子奥さんは屋根に上つて、チユーリツプのあたまだけとつて、小さい花瓶にさしました。
そんなわけで、お猫さんと本子奥さん以外には誰も背高のつぽのチユーリツプのことをしりません。皆さん、腹をたてて、むきになるとこんな珍妙なことがおこります。