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金の猫の鬼
きんのねこのおに |
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作品ID | 45057 |
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著者 | 豊島 与志雄 Ⓦ |
文字遣い | 新字旧仮名 |
底本 |
「日本児童文学大系 第一六巻」 ほるぷ出版 1977(昭和52)年11月20日 |
初出 | 「少年倶楽部」講談社、1933(昭和8)年10月 |
入力者 | 菅野朋子 |
校正者 | 門田裕志 |
公開 / 更新 | 2012-01-21 / 2014-09-16 |
長さの目安 | 約 9 ページ(500字/頁で計算) |
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一
むかし、台湾の南のはじの要害の地に、支那の海賊がやつてきて、住居をかまへましたので、附近の住民はたいへん困りました。殊にその海賊の首領は、頭に角が一本ある鬼で、船には守神として黄金の猫をもつてるといふので、「金の猫の鬼」と綽名されてる、気性の荒々しい大男でした。
「金の猫の鬼」をどうかしてたちのかせたいと、附近の住民たちはいろ/\相談しましたが、よい考へも浮かびませんでした。
それをピチ公がきいて、よし俺が行つてやらうといふので、一人でのこ/\出かけていきました。――ピチ公といふのは、元気な快活な少年で、魚が網ですくはれた時のやうにいつもぴち/\してるので、みんなからさう呼ばれてるのです。
ピチ公は散歩にでも行くやうな気持で、口笛をふきながらやつていきました。野を横ぎり、丘を越え、森をつききつて、「金の猫の鬼」の住居の方へと進みました。
ところが、森がいつまでも続いて、方向が分らなくなりました。しかも、道が二つに分れてゐます。
その分れ道のところに、変な男が、木を切るやうな風をしながら、煙草をすつてゐました。ピチ公は平気で尋ねました。
「『金の猫の鬼』のところへ行くには、どつちへ行つたらいゝんですか。」
男は眼をちらと光らして、答へました。
「右へ行きなさい。」
――まてよ、とピチ公は考へました。こいつは変な奴だ。右へ行けといつたが、俺の方から見た右は、こちらを向いてるこの男から見れば左だし、この男から見た右は、俺には左だし……はてな。
ピチ公は思ひきつて、左の方へ――その男から見れば右の方へ、進んでいきました。男は何ともいひませんでした。
それから、いくら行つても森ばかりでした。ピチ公は心細くなつて、道をまちがへたのではないかと思つてると、また変な男に出逢ひました。
「『金の猫の鬼』のところへは、こつちから行けますか。」とピチ公は尋ねました。
「わたしは知らない。」と男は答へました。「この先に行くと、ひとが三人ゐるところに出るから、そこでききなさい。」
それから暫く行くと、少し森の開けたところに出て、そこに変な男が二人ゐました。
――はてな、とピチ公は考へました。あいつは三人といつたが、二人きりゐない。だが、俺を加へると三人になるし……。
ピチ公は思ひきつて、「金の猫の鬼」の住居を尋ねてみました。
「この森を出ると、すぐそこだよ。」と二人の男は答へました。
なるほど、暫くすると、森から出ました。その向うの丘の上に、大きな土蔵のやうな家があつて、そり返つた太い剣をもつてる番人が、入口に立つてゐました。
ピチ公は平気な顔で進んでいきました。そして、右手をあげ、それを左から逆に額にかざして、おどけた顔をしながら、失敬、といつてやりました。
番人はにやりと笑ひました。ピチ公を仲間の少年と思つてか、黙つて通らせました。
土蔵の中に…