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スミトラ物語
スミトラものがたり
作品ID45061
著者豊島 与志雄
文字遣い新字旧仮名
底本 「日本児童文学大系 第十六巻」 ほるぷ出版
1977(昭和52)年11月20日
初出「幼年倶楽部」講談社、1934(昭和9)年9月~1935(昭和10)年2月
入力者菅野朋子
校正者門田裕志
公開 / 更新2012-06-24 / 2014-09-16
長さの目安約 31 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

 むかし、インドのある町に、時々、飴うりの爺さんが出てきまして、子供たちにおもしろい話をしてきかせて、うまいまつ白な飴をうつてくれました。大きな大黒帽をかぶり、黒い衣をき、白いながいひげをはやしてゐて、どこからかやつてきてはまたどこかへ行つてしまひます。どこのどうした人かわかりませんが、みんなから、スミトラ爺さんとよばれてゐました。その白い飴がたいへんうまく、その話がたいへんおもしろいので、子供たちにとつては、スミトラ爺さんがやつてくるのがたのしみでした。
 白い飴のはうは、皆さんに差上げることができませんけれど、そのおもしろい話のはうを、あらましおつたへしませう。

一 手品使になる話
 わたしが十五歳の時のことでした。その頃わたしは、父にも母にも死にわかれ、兄弟もなく、一人ぽつちでしたから、薬屋をしてゐる叔父さんのうちにひきとられて、小僧としてはたらいてゐました。
 その時、諸国をわたりあるいてる五六人ぐみの手品使が、わたしの町にやつてきました。広場に小屋がけをし、夜になると、あかあかと燈火をつけ、鐘や太鼓をうちならして、にぎやかにこうぎやうしました。
 わたしは胸をわくわくさせながら、それを見に行きました。正面のたかいぶたいの上で、金や銀のぬひとりのある服をつけ、顔を赤くぬつたり白くぬつたりした人たちが、いろんなげいをしてみせました。一枚のカードが、てのひらのなかで、たくさんの数になつたり、消えてなくなつたりしました。ハンケチのなかから、鳩がとび出しました。さかだちをして、足で五色の輪をつかひわける者がゐました。大きなまりの上にのつて、まりをころがしながら、ダンスをする者がゐました。それから、綱わたりやちうがへり……。そのほかいろんなおもしろいげいがあつて、みんなからやんやとかつさいをうけました。わたしもむちゆうになつて手をたたいてやりました。
 それらのことが、うちにかへつてもわたしの頭からはなれませんでした。ああいふおもしろいげいをしながら、方々旅をしてあるいたら、どんなにゆくわいだらうかと、わたしは考へました。それになほ、前にいつたとほり、叔父さんのうちは薬屋で、薬になるいろんな草の茎葉や根のかわかしたのが、世界各地からあつまつてゐましたので、方々旅をしてあるけば、それらの薬草をじつさいに研究することもできるわけです。
 いろいろ考へてからわたしは、あの手品使たちの仲間にはいつてみようと思ひました。そして翌日、わたしは一人で、手品使たちの小屋に行つてみました。みんなねばうらしく、まだ起き出たばかりのところでした。
「親方にあひたいんです。」とわたしはいひました。
 眼のぎよろりとした肥つた男が、奥から出てきました。仲間にいれてくれませんかとわたしはたのみました。親方はわたしのやうすをじろじろ見ながらたづねました。
「なにか手品を習つたことがあるか…

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